べリアルの転換期

べリアルの転換期①

 もう四日目。そう、もう四日目だ。


 二日目からは、えーちゃんが車でわたしの家まで来て、それからわたしと一緒に徒歩で登校するという体でわたしの家で合流。その後、学校をさぼって遊びに行って、別れ際にキスをする。そんな感じだった。


 二日目の食べ歩きに、三日目のスイーツバイキング。少々体重が気になり始める。この期に及んでそんなこと気にしても意味がない事くらいは分かっているけれど、それでも気になってしまうのは、自分がまだ迷っているのからなのかもしれない。


 この三日間はとても楽しくて、全く心の靄を感じることはなかった。


 外にいる時はもちろん、帰ってきた後家にいる時も明日は何をするか、何があるか、どうなるか。それを考えているだけでとても楽しかった。


 とても楽しい日々に私はきっと迷っているんだ。まだきっと引き返せるから。


 えーちゃんにはお金を使わせてしまったけど、わたし達はまだ風邪で休んでいることになっているだけだし、何食わぬ顔をして学校に戻っても問題はないはず。最悪、学校にずる休みしていることがばれてしまっても、多分叱られるくらいで済むとは思う。だから、今はまだ引き返えせる。


 一体いつまでなら引き返せるか。おそらく、そう長くは続けられないのは知っている。学校に風邪とは言ったが、親には学校に行っていることにしている以上、この矛盾はいずれどちらかからどちらかへの連絡でこの矛盾はあらわになってしまう。


 鏡で確認しながら髪を纏め二つの尻尾を作る。カバンに着替えの服、財布とスマートフォンだけ入れて、玄関を出た。


 時計はしっかりと見てから出て来た。少しして、いつもの車が家の前に停車した。


 ドアが開かれて、えーちゃんが降りて、こちらに歩いてくる。


「おはよう、陽菜」


「おはよう、えーちゃん」


 えーちゃんは今日も可愛い。そして、綺麗だ。やっぱり外国人の骨格は本能的に日本人の骨格よりも上だと感じる何かがある。ハーフであるえーちゃんは日本人らしさがある中、外国人らしさも感じられる。


 一昨日から、わたし達は付き合い始めた。相思相愛なのは最初の日に分かっていたことだから、そのまま付き合わない理由もなく。朝会って、別の街へ移動して、そしてすぐに付き合おうとなって、その時から晴れて恋人同士というわけだ。知り合いの目から逃れながら遊んでいる以上晴れてといっていいのかどうかは、分からないんだけれども。


「ねぇ、ヒナ、今日は何処に行く?」


「うーん、どうしよう」


「って、言いたいところなんだけど、まずは県外に移動しましょう」


 えーちゃんがそう提案してきた。


「県外に行くの?」


「うん。県外に行こう。詳しい説明はするから、まずはいつも通り駅に向かいましょ」


「わ、分かった」


 えーちゃんは、三日前から一昨日、昨日と、どんどん積極的になってきた。好きな食べ物とかは分からないけど。メニューを開いて自分で品を選んだり、スイーツバイキングの時も、苦手なりに、どれなら無理なく食べられるかを探るために、色々とケーキを食べていた。結局はやっぱりあんまり甘いものは得意じゃないって結論が出ちゃったんだけど。


 そして、ついに今日、えーちゃんがどこに行くか提案してきた。なら、これはえーちゃんの言うとおりにするしかない。それに、何か理由がありそうだし。


 いつも同様に公園で着替えてから手を繋いで駅まで歩く。駅に着くと建物に入る前に、えーちゃんが足を止めた。


「ここで軽く説明するね」


「県外に行くって話のこと?」


 駅に着いたし、やっぱりその説明をされるか。


「たぶん、そろそろ学校から連絡が来るころだと思うの。だから、今日は外泊しましょ。明日からの事は私に考えがあるけど、ひとまず今日はお互い家じゃなくて外で一泊しましょ、ホテルは取ってあるから、泊まる場所は気にしないで」


「う、うん」


「あと、場合によってはヒナのスマホを捨ててもらうかもしれない」


「スマホを?」


「うん。場合によるとは言っても、ほとんど確実にだろうけど」


「えーちゃんがそういうなら、そうしたいところなんだけど……」


 スマホを捨てるということは、もう終わりが近いということになる。学校と家族の両方を問題なくどうにかするのは今日が限界。えーちゃんの予想が当たっていたらそういうことになる。思っていたりより早かった。漠然と一週間は休めるかとも思ったけど、言われてみれば、風邪で休むなら四日は結構長いほうかもしれない。


 でもスマホを捨て、連絡を絶つということは、いつか来ると今朝にも考えたばかりの引き返せなくなるその日になるということだ。


「でも、やっぱりヒナはスマホ捨てるの嫌だよね。どうしても捨てたくないなら、一旦駅のロッカーに預ける形でもいいけど、取りに行ける保証はないかな」


 ロッカーに預けるか、捨てるか。ロッカーに預ければ確かに本当に必要なときは、取りに行けるだろうけど、もう終わりのその日が近いとするのなら捨ててしまっても大きく変わりはない気がする。でも、やっぱり便利な物である以上捨てるのは躊躇してしまう。


「えーちゃんは、捨てた方がいいと思う?」


 えーちゃんに尋ねてみる。捨てた方がいいのか、ロッカーに入れた方がいいのか。


「私からすれば、スマホは捨てた方がありがたいけど」


 なら捨てる。えーちゃんが言うことだし、きっと捨てた方がいいのだろう。


「じゃあ、この駅のごみ箱に……」


「待って、まだ捨てなくていいよ。まだ手放すべきかどうかまで確定したわけじゃないから。それは、ヒナの親から電話がかかってきてから判断する」


「わかった」


 スマホをポケットに入れて、駅の中に向かって歩き出す。


「そう言えば県外って言ってもどこ行くの?」


「そうね、どこでもいいといえばどこでもよかったんだけど、どうせなら遠くに行った方がいいんじゃないかと思って、新幹線に乗って行く場所を選んでみた」


「新幹線?」


「うん、新幹線。修学旅行、私たちはいけないでしょ、だからせめて代わりに新幹線に乗るのもいいかなって思ったの」


 修学旅行。そうか、来月だっけ。班分けはもうすんでいて、ある程度は自由行動の日程も決まっていた。こんなことになるとは思っていもいなかったから、決めた時は凄く楽しみにしていた。


 他の班員がいないし、ノルマも何も無い今の方が比べる間もなく楽しいのは間違いない。でも、えーちゃんとのプチ旅行を楽しみにしていたのも間違いないんだ。


「行き先は流石に修学旅行とは違うけど、言った事が無い場所に二人で行くのもの悪くはないでしょ」


「そうだね。それはすごく楽しそう。というより、楽しみだよ、えーちゃん」


「良かった、陽菜がそう言ってくれるなら、ホテルに予約を取った甲斐があった」


「それで、どこまで行くの?」


「うん、そうだね、どこまで行くかは着いてからのお楽しみって言うのは簡単だけど、実際隠すのは難しいね。切符にも新幹線にもそれくらい書かれているだろうし。まぁ、だから、切符を見るまでのお楽しみって事にしておくね」


 えーちゃんは新幹線の切符を買える券売機まで向かって行った。


 そして、ピコピコとタッチパネルを操作して、一分から二分して、四枚の切符を持って戻ってきた。


「はい、これ、陽菜の分」


「ありがとう」


 在来線の券と新幹線の券で二枚。セットで通すらしい。


「ここ?」


 新幹線のチケットの書いてある文字を指差してえーちゃんに尋ねる。イメージがあんまりわかない。金属食器が有名なことくらいは知っているけど、実際何があるかと言われても全く思い浮かばない。


「うん、何があるかはよく分からないけど、新幹線一本で行けるし本数もそれなりに多いから、行き来も結構楽だし、悪くないかなって」


「えーちゃんも何があるかよく分からないの?」


「まぁ、行った事が無いからね、でも新幹線で行けるくらいだから何かしらはあると思うよ」


 それもそうか、新幹線が止まる駅なら大きいだろうし、その駅周辺なら何かしらあるだろう。


 何があるかは着いてからの楽しみとして、新幹線に乗るために電車に乗って移動をしよう。

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