曲事へのファーストペンギン④

 ゲームセンターに入ったのはいいが、特別に何か目的があって入ろうとしたわけじゃないから、すぐに何をしようとか決められない。


「それで、どうする?」


 音楽ゲームや対戦格闘ゲームは、初心者は少しやり難いところ有るし、クレーンゲームかな。あとは、プリクラっていう選択肢にはあるが、えーちゃん写真とかに写ったりするのもあんまり好きじゃないんだよね。これについては聞いた事がある、自分の姿を残すのがいやだって。ゲームセンターに連れ込んだうえ、プリクラを撮るってのは流石に申し訳ない。なら、もう選択肢は一つだけか。


「クレーンゲームで何か取ろう」


 クレーンゲームのコーナーに移動して何か取れそうなものを見定める。いや、見定める必要もない。何か欲しい物を手に入れられるまでやり続ければいつかは手に入る。


 クレーンゲームは、ぬいぐるみやフィギュアがメインなのは想像通りだが、食べ物の小さな模型っていう謎な物とか、ヘッドフォンやスマホのワイヤレス充電器なんていう実用的な物もある。


 どれから始めるかとか考えてみたけど、正直どれでもいいから、とりあえずやってみるか。


 すぐ近くにあったワイヤレスイヤホンでも取ってみよう。


 五百円玉を投入する。残り回数が「0」から「6」に変わる。イヤホンは箱に入って、半分穴に乗り出している感じ。なんか取りやすそう。


 ボタンでアームを動かして行き、丁度いいところで止める。ちょうどいい所で止まったアームは爪を開いてからそのまま下に降りて行き、丁度いい場所で爪を閉じた。


 そして、イヤホンの箱を撫でながら上に上がっていた。


 結果として、イヤホンの箱は少し動いただけだった。


 やっぱり一回では取らせるつもりはないか。こうやって少しずつ動かしていって取るしかない。


 そうして回数を重ね取れたのは13枚目の五百円玉を入れた最初の一回目。取れたはいいが、凄いお金かかったし、無情に表示された「5」という数字に何とも言えない勿体なさを感じてしまう。かといってこのままにするのもあれなので、適当に五回アームに反復運動をさせて数字を「0」にした。


 なんかお店で買った方が安く済んだ気もするが、そういうのは考えないようにしないと下手な人はクレーンゲームなんて出来ない。


「さて、次はどうしようかな」


 次にする筐体を探す。もうどれくらいで取れるかなんて気にしなくていいだろう。どうせ初心者の目測なんてまるで役に立たない。


 とりあえずどんな景品があるか一通り見て回っていると一つ気になる物を見つけた。


 大きなぬいぐるみを取るための三つの爪が付いた大きなアーム。そして、その中にいたのは、明らかに強靭の目をした原寸大マグロのぬいぐるみ。大きいうえに、目が魚類のものでなく完全に危ない人のそれ、だが、ひれやえらなど要所要所が物凄くリアル。絶妙に気持ち悪いが、完全な拒絶を生むほどではないほど良さより少しだけ大きい気味の悪さ。


 別にこんなもの取らなくてもいいはず、実用性もなければ、可愛げもない。でも、何故かとらなければいけない気がした。


 五百円玉を入れる。数字が「0」から「3」へ。一回当たりの挑戦権が高いのもあってなおさらとる理由をなくしている気がする。でも、それでもとらないといけない気がするのだ。


 プランプランと揺れ動くアームをレバーで移動させ、マグロを掴ませる。だが、しかし掴めない。力が弱いのだろうか、持ち上がりはしたがアームが上がりきった衝撃で下に落ちてしまった。こうやって少しずつ移動させるのが正しいのだろうか。分からないが、取れるまでやる。


 そうして、掴んでは落とすを続けて十回目。落下した際に前に進む保証はなく結果としてその場から大して動いていなかった。だが、諦めはしない、懲りずにマグロにアームを落とす。そして、9回目まで同様マグロは掴まれる……が上に上がりアームが止まった衝撃にマグロが耐えた。そう、マグロは落ちることなく掴まれたままだった。そして、そのまま出口に向かった行くが、掴んだ位置が悪かったのか移動している最中に落ちてしまった。少し残念にも思えたが、逆に考えればこれは取れるものだ、取るしかない。


 次にしっかり掴めたのは三十回先だった。だが、今度こそしっかりと良い位置を掴んでいて落とす心配はない。アームに捕まれて中を泳ぐマグロはそのまま出口にスポン。


「やった!」


 取り出し口から無駄に大きなマグロをやっとやっと取り出した。妙に重みがあり、独特な手触りだ。取って見てまじかに見るとより思うが、何だろうこれ。どこの誰に向けて作ったものなのか分からない。それに大きいからどうやって持ち帰るか悩む。というかわたしより大きんだけど、これ。わたしの倍近くある大きさ、本当にどうやって持ち帰ればいいんだ。


 どうしようかと悩んでいるとゲームセンターの店員がやって来た。


「当店オリジナルグッズまぐろ君の獲得おめでとうございます! そちら大変大きな景品ですので、お預かりや郵送できますがいかがなさいますか? お預かりでしたらおかえりになる際に引き取るのではなく、引換券をお渡ししますので、お持ち帰りの準備が出来次第取りに来ていただければ、その時のお渡しします。郵送であれば、別途郵送料が掛かりますが、用紙に住所さえお書きいただければ、こちらで手続きを済ませていただきます。明後日までには届くと思いますので、なかなか持ち帰る準備が出来そうにない場合はこちらがおすすめです」


 郵送……それはそれで何か面倒な気がする。届いた後のやり取りとか。そのまま持ち帰ってもあんまり変わらない気はするけど。


「陽菜、持ち帰るのなら心配しなくても大丈夫だよ。迎えに来てもらった時に車に乗せれば大丈夫だから。郵送だと今日中には持ち帰れないでしょ」


「えーちゃんがそう言うなら、そうする。今日中に持ち帰るメリットはあんまりないんだけど、ここまで大きいのを郵送するのもあれだし。というよりぱっと住所出て来ないし」


「預ける方でお願いします」


 えーちゃんのお言葉に甘え、ゲームセンターに預けることにした。


「はい、分かりました、少々お待ちください。こちらを置いて来るのと、引換券の方取ってきますので」


 店員はそういって、マグロを肩に担いでどこかへ消えて行った。


 店員が去って、マグロが目の前から消えてふと我に返ったのだが。


「そう言えば、えーちゃんは何か取った?」


 わたしばっかりクレーンゲームを楽しんで、えーちゃんはお金を崩してはわたしに持って来るばかりだった気がしたのだ。


「いや、私はずっと陽菜ことを見ていたから」


 やっぱりそうだった。半ば無理やりゲームセンターに連れて来た上にわたしばっかり楽しんでしまっている。

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