曲事へのファーストペンギン③

 時間もいい時間だしごはんってのは悪くない選択。お店選びも任されたことだし、どこか適当に入ろう。


「そう言えば、えーちゃんはどのタイミングで連絡するの?」


「もうそろそろかな。お昼休みの時間帯になったら、メッセージでも送っておくからあまり気にしないで」


「そっか、分かった」


 そう言われてみれば、学校内では一応スマホ使えないことになってるから、電話は出来ないはずだもんね。じゃあ、お店選びで店内の賑やかさかどうかっていうのはのは気にする必要は無い。


 特別食べたいものって言うのはないんだけど、どうしようか。とりあえずファミレスにでも入ってしまおうか。


 歩きながらファミレスを探す。そして間もなくして見つける。これも学校からそう離れてない場所にある店と同じチェーン店だけど、別にかまわないだろう。


「えーちゃん、そこでいい?」


「うん、別にかまわないよ」


 店も決まったし、えーちゃんもそこでいいということなのでお店に入った。流石に昼時ということで、働いている人や近所に住んでいる人などでそれなりに混んでいるが、そこは平日ということで入れないほどではない。


 席に案内され、着いた先はドリンクバーの近く。利用するなら近い方が何かと便利でいい席だ。ほんの少しラッキー。


 何を頼もうかな。ハンバーグとかも悪くないんだけど、今日はせっかくだしちょっといい感じの雰囲気の料理と思ったけど、この服は借り物だし汚したら悪い。油はねとか、汁はねそういったものを気を付けなきゃいけないから、麺や鉄板に乗せられてくるものは駄目か。となると、なにがいいのかな。


「うん、決めた」


 メニューを閉じ、えーちゃんに渡す。


「決まったの?」


「うん、オムライス」


「そう、じゃあ、私もそれでいいかな」


 えーちゃんはメニューを開くこともなくメニュースタンドに戻した。


「じゃあ、店員さん呼ぶね」


「うん」


 ボタンを押してしばらく。店員さんが少ないのか少し経ってから店員さんが訪れる。


「お待たせしました、ご注文のほうお伺いします」


「オムライス二つと、ドリンクバーを二つ」


「はい、オムライスとドリンクバーを二つずつですね。お冷とドリンクバーはそちらにありますのでご自由にどうぞ」


 店員が厨房に戻って行った辺りで、ドリンクバーへ飲み物をに行く。


「えーちゃんは何にする? 持ってくるよ」


「ううん、すぐ近くだから自分の分は自分で取ってくるよ。それに私は温かいのだからね、陽菜は冷たいのでしょ?」


 そう言ったえーちゃんは席から立ち上がり、コーヒーマシンからホット用のカップにコーヒーを注いでいた。


 コーヒーを注いでいるうちにわたしもドリンクバーに向かいアイス用のグラスに氷を入れ、そこにメロンソーダを注ぐ。


 コーヒーとメロンソーダの入れる時間の差か、えーちゃんと同時に席に戻る。


「それにしても、えーちゃんもオムライスで良かったの?」


「うん? どうして」


「いや、わたしに合わせなくても好きな物食べても良かったのにって思って」


「別に、オムライスは苦手じゃないし、問題はないよ」


「うーん、そうじゃないんだけど、えーちゃんがそう言うなら、まぁ」


 飲食店に来るとだいたいこんな感じなんだなぁ、えーちゃん。わたしが甘い物や冷たい物を頼んだ時以外は大抵同じ物を頼む。


「えーちゃんって好きな食べ物とかないの?」


 この機会だから聞いてみよう。


 良く考えたら、わたしはえーちゃんの事を知っているようで詳しくは知らない。


 苦手な物は知っているけど、好きな物って分からない。


「好きな食べ物……特にはないけど。甘い物とか冷たい物、あとは炭酸とかはあんまり好きじゃないかな」


「うん、それはなんとなく知ってるけど」


「まぁ、私の好みなんて大体陽菜の知っている通りだと思うよ」


 知っている通り……そんな子と言われても、やっぱり詳しくは知らない。


「えーちゃんて何か好きな事とか、物とか、そういったのは無いの?」


「好きな……ね……」


 えーちゃんの好きな事も、物も、考えてみれば思いつかない。何かするとなれば大抵何でもするけど、自ら進んで何かをしようとするってのもない。何かを集めている様子もないし。本当に知らないんだな、わたし。


「そうだね、私は嫌いな物とか苦手な事とかはいろいろあるけど、あまり好きってのは無いよ。私が好きなのは陽菜の事だけかな」


 さらりとそんなことを口にするえーちゃん。


「えっと、う、うん」


 流石に少し恥ずかしい。そんなにストレートに言われると恥ずかしさがやっぱり出て来る者だ。好きって言う言葉の意味は、恋人同士のそれじゃなくて友達同士のそれって事は分かるんだけれども、えーちゃんの独特の雰囲気、クールで真面目なその雰囲気で前者の意味に感じられてしまう。


「どうしたの? 顔が少し赤いよ、ヒナ」


「え、えっと、なんでもないよ」


 変な勘違いしていると思われても困る。そう言うのはえーちゃんに嫌われかねない。えーちゃんに気持ち悪いとか思われたらどうしたらいいか分からないから。


 えーちゃんの好みの話はここまでにしておこう。これ以上聞いて変に墓穴を掘る訳にもいかないし。


「お待たせしました、オムライスです」


 そんな会話をしているうちに思いのほか時間は経っていたようで、オムライスが運ばれてきた。


「ごゆっくりどうぞ」


 伝票立てに伝票を入れて店員は厨房に戻って行った。

「飲み物とって来るね」


 いつの間にか飲み干していたメロンソーダのおかわりを取りに行く。その場から離れるように。ちょっとだけ逃げるように。


 氷はまだグラスに残っているし、そのまま、メロンソーダを注ぎ、席に戻る。少しえーちゃんから離れて冷静になりたかっただけに、珍しくドリンクサーバーが近いことがありがたくない。距離的にえーちゃんは目と鼻の先にいる状態のままだったし。


 メロンソーダを一口飲んでからオムライスを食べ始める。喫茶店で食べたパフェ同様、特別美味しいわけじゃないけど、安定した美味しさがある。


 そうして、オムライスを半分食べたあたりで、えーちゃんが訪ねてきた。


「ヒナ」


「ん、なに? えーちゃん」


「ヒナは私の事どう思っているの?」


「えっと、その、わたしも好きだよ」


 おちゃらけず、でもそこまでまじめにせず、程々に程々に、その言葉を口にした。変な伝わり方して気持ち悪がられたくない。本当に気を付けて言った。


「良かった……両想い」


「あ、え、う、うん」


 うーん? うーん。うん? なんだろう……両想い? わたしが思っている意味の他にも意味があるのだろう。多分友達同士の好きでも使える言葉。言葉? うーん、でも、えーちゃんわたしより物知りだし。でも、でも、やっぱりえーちゃんの雰囲気がわたしが知っている方での意味に感じさせる。


「ふふっ……」


 なんかからかわれているような気もする。えーちゃんと出会ってからもう10年は経つけど、からかわれた事なんかないし、どうなのかは分からないけど。


「どうしたの? ヒナ」


「い、いや、なんでもない」


 えーちゃんらしくないといわれればえーちゃんらしくないけど、やっぱりからかわれている気はする。というより、そう考えないと、なんか悶々としてしまいそうだし、そういうことにしておこう。


 その後、オムライスを食べ終えて店から出るまではいつものえーちゃんのイメージとは違わかったし、やっぱりもしかしてとかふと頭をよぎったけど、それは受け止めず、ちゃんと通り過ぎさせてあげる。留めたらまた変な考えをしそうだし。


「さてと、次はどうする?」


「どうしよっかな」


 次か、次……やっぱりパッとは思いつかない。


「もうちょっとこの辺り歩いてみよっか。なんかあるかもしれないし」


「うん、分かった」


 この辺り内があるかなと見て回っていると。あった、ゲームセンターだ。わたしもほとんど入ったことはないけど、えーちゃんはもっと入ったことないだろう。


「えーちゃん、ゲームセンターとかはどう?」


「陽菜が入りたいなら別にいいよ」


「じゃあ、ゲームセンターに行こう」


 自動ドアが開き漏れ出る騒音は更に大きくなる。


「結構、音、大きんだね」


「あ、えーちゃん、こういうの駄目だったりする?」


「ちょっと、苦手かも」


「えっと、じゃあ、止めておこう」


 えーちゃんが苦手なら入る必要は無い。自動ドアから離れ、入るのをやめようとしたところ、えーちゃんに腕を掴まれ止められた。


「いや、入ろう。陽菜がせっかく提案してくれたんだし、音だってきっとそのうち慣れるから」


「えーちゃんに苦手なのを我慢させてまでゲームセンターに入りたいわけじゃないから、そんなこと気にしなくていいよ」


「ううん、そっちこそ気にしないで、私は陽菜のしたいことがしたい。だから、何も遠慮しないえ、私の事なんか気にしなくてもいいからさ」


「え、でも、わ、分かった」


 えーちゃんがわたしのうでをぐいぐいと引っ張るから、ここで断るのも難しいし、そこまで言うならやっぱり入るとしよう。

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