第16話
「これはこれは若旦那。どうぞ、こちらに。お好みの子ならこちらにたんとおりますよ」
かつてはここで働く遊女だったのだろう、世話役の女は厚い化粧の奥からにんまりと笑うと、奥の暗がりを指さした。
「お好みの子をどうぞお召しくださいな」
その言葉が終わると同時に、傍らのランタンに一斉に灯がともった。そこに浮かび上がったのは、黒い敷物の上に思い思いの姿で座る、まだ少女といってもいい年頃の遊女たちだ。みんな美しく着飾って派手な化粧をし、コー・リンを見ると媚びるように微笑んだ。
暗がりから突然、灯りの中に登場する美女たち。なるほど、女たちを効果的に魅せる演出か。
「ここに控えておりますのは、まだ幼く可愛い素直な女たちです。きっと、ご満足いただけますよ。ささ、どうぞお選びください」
「あ、ああ、うん。みんな、可愛いなあ」
だらしない笑いを顔に張り付けながら、コー・リンの胸は痛みに苛まれていた。
彼には見えていた。
ここに控える遊女たちがみんな冷たいものを抱えていることを。
ある者は貧しさから親に売られ、ある者は信じた男に騙されてここに来た。型に嵌められ身動きできない女たちの、その笑顔の奥には悲痛な叫びが滲んでいる。
「どうなさいました? お気に召しませんか?」
世話役の女が困ったようにコー・リンの顔を覗き込んだ。慌てて、彼は言う。
「あ、違うよお。あんまりいい子ばかりだから、見惚れちゃって。ええっと、どの子がおすすめかなあ?」
「それなら……ルカ!」
真紅のナイトドレスを纏った遊女が慌てて立ち上がる。
「この子はルカと申します。まだ、ここに来て一年も経ちません。いかがですか?」
「ああ、そう。うん。いいね。この子にするよ」
「ありがとうございます。……ルカ、粗相のないようにするんだよ。誠心誠意、お尽くしするんだ。いいね?」
ルカはすっとコー・リンの傍に寄り添うと、甘い声で言った。
「はい。旦那様、ルカと申します。よろしくお願いいたします」
そして、ドレスの裾を摘まむと、どこかの姫君の様に優雅に挨拶をした。それを世話役の女が満足そうに見ている。
へえ。さすが、ダイヤモンド・エルの娼館だ。若い遊女にも徹底して礼儀を教育しているんだな。
「うん。こちらこそ、よろしく。で、どこに行けばいいのかな?」
「こちらへ。私のお部屋にご案内します」
あくまで上品にルカは言うと、控え目にコー・リンの腕を取って娼館の奥へと連れて行った。
『ルカちゃんには悪いことしたね』
白々と碧い剣の少年は言う。
『ベッドに入った途端、姿を盗まれて気を失ってしまうなんてね』
「彼女にはいい休養になるだろう。……しかし、本当に元の姿に戻れるのか少々、不安だなあ」
コー・リンは自分の細く白い腕をまじまじとみつめる。
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