第13話

「あ、あの、ダイヤモンド・エルってやっぱり美人なんですよねえ?」

「なんだよ、まだ言うのか」

「もう会おうなんて思っちゃいませんよ。だた、どんな人なのかなあって。すごくきれいで頭が良くて、強くてタフな人だって聞きますよ」

「まあ、そうだな。男以上にタフな人だな。あの細い体のどこからあれだけの強さが出てくるのか謎だな。一日中、忙しく駆け回っていても、翌日は涼しい顔で現れる。疲れた顔なんて見たことないね」

「へえ。そうなんですか。……あの、それで、彼女はここに住んでいるんですか?」

「ああ、そうだ」

「今夜もここにいるんですよね?」

「そうだよ。女たちが住んでいるのは娼館だ。姐さまもそこにいる。彼女の部屋は特別らしいぞ」

「特別?」

 きょとんとコー・リンは無邪気な目で男を見上げた。

「どう特別なんですかあ? お兄さんはその部屋に入ったこと、あるんですかあ?」

「まさか」

 男は笑いながら、肩をすくめる。

「俺は用心棒として雇われて、花街の入口あたりを護っているだけだからな、娼館の中に立ち入ることはほとんどない。だが、娼館の中で働く男衆どもの話によると、どこかの貴族の屋敷みたいに豪華絢爛なすごい部屋らしい。すごくいい香りがして、ベッドもとんでもなくでかくて、ほら、こう、屋根の付いた」

「ああ、天蓋付の?」

「そう、それだ。あんなベッドで絶世の美女の姐さまに添い寝して貰えりゃ、それだけで天国に行けること請け合いだ」

「へえ、豪華な部屋でいい香りがするのかあ。そりゃあいいなあ……」

「おい、こっそり会いに行こうなんてことを考えるなよ」

 うっとりと天を仰ぐコー・リンの様子に、男は不安になったのか、釘をさすように言った。

「あの方に相手して貰えるのは、ほんのひと握りの選ばれた方々だけなんだからな。姐さま会いたさに、娼館の中をひょこひょこ動き回って、男衆にでもみつかったら、お前、有無も言わさず殺されちまうぞ。無事に家に帰りたいならおとなしく分相応な相手と遊んでおくんだな」

「あー、判っていますよ。怖いなあ」

 コー・リンはへらへらと笑って言った。

「僕だってそこまで馬鹿じゃないですよお。怖い噂も聞きますからねえ」

「噂?」

 ふと、男の歩みが遅くなった。怪訝そうな顔でコー・リンを見る。

「その噂ってのはもしかして」

「ええ、ダイヤモンド・エルは一度、死んで蘇ったとかなんとか。死体を見た人がいるんでしょ? だけど、ダイヤモンド・エルはその後もちゃんと生きていて、貧民窟をいつも通りに差配している。だから、ダイヤモンド・エルはあの世から蘇ったんだって」

「……お前、その噂、どこから聞いたが知らねえが、ここで気安く口にするんじゃねえぞ」

「え。まずかったですか? でも、よく聞く噂ですよ、みんな知っている……」

「だとしてもだよ」

 声を低くして男は言った。

「ここの上の連中はその噂を消そうとやっきになっている。最初に言い出した男衆は忽然と姿を消した。どうなったかは察しが付くだろう?」

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