第8話

「さっきの首飾りは換金しておく。その呪具代を引いて残った金はお前らが戻ったら返すからここに取に来い。生きて戻らなかったら、俺がネコババしといてやるから安心しろ」

「お好きにどうぞ」

 皮袋を受け取ると、コー・リンはいつものように愛想よく笑いかけ、少年を連れて店を出て行った。その細い背中にサリはそっと武運を祈る守護の術を掛けた。

「おまけだよ」

 サリはそう言って微笑むと、思い出したように店の奥を振り返った。

「おい、もう出てきていいぞ」

「……止めてくれって頼んだじゃないの」

 奥から姿を現したのは、すらりとした肢体の若い女性……口入屋のカシスだった。彼女はトレードマークの癖のない腰まで届く鮮やかな赤毛をなびかせながら、大股でサリに歩み寄った。

「何で行かせちゃうのよ、貧民窟に! 生きて帰って来れないかもしれないのに!」

「そう怒んなよ」

 苦笑しつつ、サリは詰め寄るカシスをなだめるように言った。

「ダイヤモンド・エルの不穏な噂は話した。それでも揺るがないなら仕方ないじゃないか。あいつは仕事をするよ」

「それでも止めてよ! 呪具は売り切れで用意できないとかなんとか言って」

「おいおい、営業妨害はやめてくれよ」

「だって……」

 悔しそうに唇を噛む彼女に、サリはそっとその肩に手を乗せた。

「本気であいつに惚れているんだな」

「なっ、ち、違うよ、ただあたしは、失敗されたら店の沽券こけんに……ああ、もう」

 諦めたようにかくりとカシスは肩を落とした。

「……仕方ないじゃない、一目惚れなんだもの。出会った瞬間に恋に落ちてた。あの時、あいつはまだ十五歳のガキだったけど……」

「お前も十四歳のガキだったろ」

「もう、うるさいわね。……自分でも判らないのよ、どうしてあんなのに惚れちゃったのか」

「そいつは永遠の謎だな。俺の知識をもってしても解明できん代物だ」

 優しくサリは笑った。

「カシス、お前は人として美しいよ。その感情は大切にするといい」

「……実らない恋でも?」

「何故、そう思う?」

「あの人……リンは、王族くずれだって。……身分違いは最初から判っていたの。優雅な身のこなしや上品な喋り方を聞いていれば、元は貴族の御曹司で、家が没落してここに流れ着いたんだろうって……でも、王族なんて……どんな理由があるのかは判らないけれど、さすがにそれは身分が違いすぎるよ」

「ああ、そこか」

「彼は誰なの? さっきも母親が元々聖職者だったとか、そんな話しをしていたじゃない。どういうことなの? サリは判るんでしょ? 王族のお抱え魔導師だったんだから」

「そうだな。俺が城にいたのはもうひと昔前の話だが、それでも昔のよしみで伝わってくる情報はある」

「何なの? 教えて!」

 身を乗り出すカシスを軽く両手で押し戻すと、サリは声を落として言った。

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