第6話

『近いことはやったけどな』

 間髪入れずそう付け足した少年を軽く睨みつつ、コー・リンは言った。

「貧民窟に潜るんだ。特に性能のいいものを頼む」

「高くつくぜ」

「その首飾りは高価なものだろう。いい金になるはずだ。必要なだけ取ればいい」

「承知」

 商売人の顔になってにっと笑うと、サリはのろりと立ち上がった。長身で常に黒装束。目深に帽子をかぶった年齢不詳のこの男は、元は王族お抱えの天才と呼ばれた魔導師だったが、しかしその破天荒ぶりに城を追放されたという過去があった。

 変り者で有名なこの男の生みだす呪具は、確かに人騒がせなものが多かったが、しかしコー・リンのような裏道を歩く者が使うには、この規格外の代物は大いに役に立った。

「おい、それはもういいよ」

 サリが棚から手に取ったものを見て、コー・リンはさすがに眉をひそめた。

「水晶玉はまだ手元にいくつかある」

「これは今までの水晶玉とはケタ違う。持って行け」

「ケタが違うだと?」

「ああ、使い心地をまた教えてくれ。生きて帰って来れたらだけどな」

「……もしかして、新しい呪具の実験を私でしているんじゃないだろうな?」

「ばれたか」

「サリ……」

「冗談さ。とにかく、これは持って行け。下水道に潜るんだろ? 丁度いいじゃないか。安くしておいてやるから」

「判ったよ」

 もう好きにしてくれとコー・リンが溜息をつくと、サリは嬉しそうに、革袋に適当に見繕った呪具を詰め始める。詰めながら呪具の説明を簡単に済ませると、ふと真剣な目になってサリは言った。

「変な噂があるのを知っているか」

「噂? 何の?」

「ダイヤモンド・エルのさ」

「というと?」

「ダイヤモンド・エルは一度、死んでいるんだと」

「……は?」

「つまり、かの女王様は生き返ったってことだ」

「……生き返ったって、彼女は不死身なのか?」

「俺に聞くなよ」

 軽く笑ってサリは答える。

「だいたいそんな荒唐無稽な話をお前は信じるのか?」

「信じはしないが、しかし火のないところに煙は立たないと言うだろう?」

「確かにな」

「噂の出所は判っているのか?」

「最近、流れ出した噂だが、ダイヤモンド・エルが死んだところを見たと言う奴がいてな。彼女の娼館で働いていた男衆のひとりらしいんだが、現在のそいつの消息は判らない。それ故、信憑性は今一つなんだが、俺も死体を見た、実は俺も知ってた、なんて後から言い出す輩も不特定多数いてな、下火ながらなかなか噂の火は消えないんだ」

「ふうん。なるほど」

 少し考えてからコー・リンは言った。

反魂はんごんの術なんてものは実在するのか? つまり、死んだ人間を蘇らせる、とか、死人の骨をかき集めて人間一人を作り出すとか」

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