第5話
御殿の頂点にいるのは、当然、正妃なのだが、王の寵愛を受ける側妃などが正妃以上に大きな顔をすることも珍しくなく、女たちの身分を越えた戦いが水面下で常に行われ、またその子供たちも、母親の立場により上下関係が確立するため、彼らの世界もなかなかに辛辣だった。
正妃、側妃たち以外には、妃たちの傍にいて身の回りの世話をする侍女、雑用や台所仕事をする下働きの女たち、城で行われる宴や式典で歌や舞を披露する雅楽がらと呼ばれる女芸人、そして女だけで編成された御殿を護る烈花隊。彼女たちは皆、幼い頃からあらゆる武術を学んだ精鋭で、男子禁制のこの御殿を護るには彼女たちのような存在が必要なのだった。
「子供の頃、あの女たちに何度挑んでも、どうしても勝てなかったなあ。結構、卑怯な真似もしたんだが」
『女だって? あんたの女難は子供の頃から続いているんだな』
「かもしれない」
そう言ったきり、ふと黙り込んでしまったコー・リンを少年は少し心配そうに覗き込んだ。
『どうした? 落ちぶれた己の身を呪って飛び降り自殺を思案中なら、せめて服を着てからにしろよ。みんなの迷惑だ』
「……ああ、服を着よう。何にしろ、それからだな」
少年の毒舌に救われたように微笑むと、コー・リンは今度こそ部屋に向かって歩き出した。
★
「お前、馬鹿だな」
店に入るなり開口一番、店主であるサリにそう言われてコー・リンは苦笑いした。
「何だよ、いきなり」
「カシスから聞いたよ。貧民窟の女王にチョッカイだしに行くんだってな? 普通、そこは断るぞ」
『だよね』
コー・リンの背後から少年が同意の言葉を送る。
『普通じゃないよね』
「お前の相棒は馬鹿なのか」
『馬鹿なんじゃない?』
「苦労するな、少年」
『まったくだ』
「……おい、本人目の前にして陰口たたくなよ」
「ああ、リン。いたのか」
「最初からいるだろ」
むっつりとコー・リンが言うと、サリはにこりと笑った。そしてカウンターに頬杖をついてまじまじと彼の顔をみつめる。
「それで、今回は何をご用意いたしましょうか、花泥棒さん」
「そうだな」
狭い店内を見回しながらコー・リンは懐から大粒のルビーが付いた首飾りを出した。
「まずはこいつを換金してくれないか。その金が足りる範囲で役に立ちそうなものを見繕ってくれ」
「ふうん」
手を伸ばして首飾りを受け取ると、サリはそれを冷たくながめた。
「で、これはどこの可哀そうな女から巻き上げたんだ?」
「そんなことやってないから……」
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