第4話
仕方なさそうに女は短剣をコー・リンの手に乗せた。
短剣を受け取った後の彼の動きは早かった。瞬時に鞘から剣を引き抜くと、下からひらりと一閃、女の胸を斬り裂いたのだ。
悲鳴を上げる
「小僧、来い!」
『さっきからいるよ』
温度の低い声がすぐ後ろからした。コー・リンが肩越しに振り向くと碧い炎に包まれた線の細い少年がすぐそこに浮かんでいる。
『どうするつもりだよ? この女。僕は嫌いだけど』
そして、少年はベッドで倒れている女を覗き込み、たちまち顔をしかめた。
『やっぱり、毒々しい。このまま放って置いて死なせてやるのも慈悲だと思うな』
「そう言うなよ」
コー・リンは軽く笑うとベッドの上に乗り、女に覆いかぶさる体勢をとる。
『リン、やめときなって』
「邪魔が入らないようにお前は扉を見張ってろ。これから私は繊細な作業に入る」
『どうだか』
少年は、不本意そうではあるが言われた通りに扉に向かい、そこに留まり漂う。それを確認してから、コー・リンは短剣を一旦、鞘にしまい、いつもの定位置である革ベルトに挟み込むと、改めて女に向き直った。
「見せて貰うよ」
大きく裂けた女の胸元は、血に汚れることはなく、ただぽかりと暗い闇が深く奥へと続いていた。それに手を掛けると何の躊躇もなく、ぐいと横に広げる。そしてその闇の奥を覗き込んだ。じっと目を凝らしていると、次第に闇に浮かび上がってきたのは一輪のバラだ。少年が言うように毒々しい赤色をしている。
「おい、小僧。空瓶を一つくれ」
『……は? その女の蜜も採取するのか?』
「折角だからな。いつか何かの役に立つ」
『悪趣味』
言いながらも少年は、小さなガラスの小瓶を投げてやる。
「どうも」
笑いながら、コー・リンはバラの花弁の間にそっと指を差し込んだ。その指先にはとろりとした金の液体が絡みついている。
「なるほど、少々、濁りがあるな。触れた指もぴりぴりする。人を不安にさせ、狂わせるいけない蜜だ」
『これを使えよ』
少年が次に投げてよこしたのは持ち手の長い白い匙だ。動物の骨から作られたもので、先が細くなったその形は花の蜜を採取するのに適している。
『はしたない。指を使うな』
「判ったよ」
苦笑交じりにそう言うと、コー・リンはバラの花弁に匙を差し入れ、慎重に蜜を掬い上げた。小瓶の半分ほどを蜜で満たすと蓋をする。
「保存、よろしく」
小瓶を少年に投げつつ言った。
「あと、昨夜のマーガレットを出してくれ」
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