バズり厨たちの逆襲

ちびまるフォイ

安全が確保されてるから言えるんじゃん

SNSをはじめて1週間がたった。


「ぜ、全然フォロワーが増えない……!」


現実でもぼっちなあげく、SNS上でも孤独にさいなまれるとは思わなかった。

これでも「人気者になるためのあれこれ」はネット上でさんざん調べて実践したのに。



【 フォロワー 増やす 方法 6月に祝日ないのはおかしい 】



調べつくしたワードで再検索を試みるとアプリの広告に行き着いた。


「やじうまMAP?」


まずはインストールして使ってみることに。

地図アプリのような画面が開いて、ところどころに火のマークが出ている。


ポイントに行けば、モンスターを捕まえられるとかだろうか。

地図で指定された場所に行ってみても、ごくごく普通の道路だった。


「いったいなんなんだ……」


その数秒後。

俺の鼻先をトラックが通過し、電柱にぶつかって大炎上。

一帯は騒然となった。


消防に連絡した後で、現場の写真を撮ってSNSにアップした。



『近くで大事故発生! しばらく通行止めになるかも!!』



投稿ボタンを押した瞬間、スマホから通知音が止まらなくなった。

誰よりも早く、誰よりも現場に近い写真がSNS上で一気に広まった。


更新ボタンを押すたびにフォロワー数が増えていった。


かけつけた救急隊員には何度も感謝された。


「すばやい通報をありがとうございます。

 この近辺はふだん人が通らないので、あなたがいてよかった。

 迅速な通報が命を救ったんですよ。どうしてあの場に?」


「あ、いえ、たまたまです」

「ご協力、ありがとうございました」


やじうまMAPの使い方がやっとわかった。

これはこれから起きる大きな事件の場所を教えてくれるアプリらしい。


「すげぇ……! まるでニュースキャスターだ!」


それからというもの、アプリを使っては事故現場やイベント現場にやってきた。

やじうまMAPには悪いことだけでなく、歌手のゲリラライブなども表示されるので便利。


探偵漫画の主人公のように、行く場所のたびに事件に巻き込まれる疫病神だと思われないよう

ちゃんとSNSにはアプリを使っていることを明記した。


「いやぁ、やじうまMAP最高だぜ!!」


フォロワーはすでに何百倍にも膨れ上がった。

SNSが充実するとフォロワーさんと飲み会も行った。最高だ。


「かんぱーーい! さぁ、みんなも飲んで飲んで!」


飲み会も終盤になり、トイレに立つついでにMAPを開いた。


「さて、次の投稿ネタのポイントはどこかな~~」


毎日1回以上の投稿が日課になっている。

先にやじうまポイントを検索してアタリをつけたところ、場所はまさにこの居酒屋だった。


「近っ! ラッキー、移動せずに済みそうだ」


なにかイベントが起きるのかとワクワクしながらトイレから戻る。

若い子がすっかり酔いつぶれていた。


「君、大丈夫?」


肩をゆすった拍子に財布が滑り落ちた。

開かれた財布には在学中の学生証が挟まっていた。

頭を覆っていたほろ酔い加減が一気に冷え込む。


「み、未成年……!?」


俺がそういった瞬間、同席していたほかのフォロワーは一斉に俺を撮影した。


「すげぇ! やじうまMAPの言ったとおりだ!」

「有名SNSユーザーが未成年飲酒させた!」

「やっぱりここでイベントが起きるんだ!!」


「ま、まさかここで起きる事件って……」


俺が引き起こすものだとは思わなかった。

彼らは飲み会よりも、やじうまMAPの現場に集まっただけだった。



飛ぶ鳥を落とす勢いでフォロワーを稼いだ有名SNSユーザーが

調子に乗って未成年に飲酒をけしかけた。


という、ざまぁみろと言いたくなる転落ネタは一気に拡散した。


皮肉にもやじうまMAPを使って俺のようにフォロワーを稼ぎたい人に手によって。


「うう……もう外に出られない……」


動画サイトでは、俺を切り貼りしたコラ動画が大量に作られ

画像は加工されたりネタにされたりで、元ネタの飲酒そっちのけで大盛り上がり。


望まない形で相変わらずフォロワーも増えて、外で見かけられれば即投稿される。



『ヤバいwwwwwwwあいつ近所に住んでるんだけどwwwwwwww』

『電車に乗ってるの見かけた →画像』

『聖地巡礼なう。窓はカーテンしまってた』



家に隠れていても、常にだれかの視線にさらされている。


「そ、そうだ! 迷惑してるってアプリ開発に苦情を入れよう!

 なにかしら手を打ってくれるかもしれない!!」


ワラにもすがる思いでやじうまMAPへと連絡したが対応は冷たかった。


『はぁ、それはご自分のまいた種でしょう?

 壁にぶつかってケガをしたら、壁があることがいけないんですか?』


「だったらせめて、やじうまMAPに俺の位置を出さないでください!」


『アプリは自動で話題になるホットスポットを出しているだけです。

 別にあなたを追っているわけじゃないです。

 ネットの流行なんてすぐに収まりますよ』


「そういう問題じゃ……」


『こちらも、あなたのために改善する余裕なんてないんです。

 新機能も作らなくちゃいけないので。それじゃ』


電話は一方的に切られてしまった。

地獄から這い上がるための蜘蛛の糸すら切れたような気持ちになった。


絶望的な状況にさらに追い込む書き込みも出てきた。



『あいつの卒業アルバム見つけたwwwwwwwwwwww』



俺が家に引きこもって新ネタがないために、俺の過去を探ってきた。

卒業アルバムをネタに再びネットで俺が氾濫する。


削除しようが文句言おうが、俺という悪役を叩く手は止まらない。


俺をダシにしたネタ作品はますます原型とどめないほど加熱していく。


「いったいどうすればいいんだ……」


落ち込んでいると、実家から電話がかかってきた。


『さとし? 大変なのよ、なんか家の前に知らない人がいっぱいいるの。

 テレビでもないみたいだし……あんた、なんかやったの?』


目の前が真っ白になった。

ついに実家まで特定されてしまった。


俺を面白おかしく加工されるだけには飽き足らず、

やじうま達は旬のネタの新情報をつかむために実家へと集まっていた。


「とにかく家から出ないで! 今からそっち行くから!!」


無関係な家族を巻き込むくらいなら、本人登場でネタにされたほうがマシ。

新幹線に飛び乗って実家まで最速で迎えに行った。


実家につくと、聞いていた人だかりは誰もいなかった。


「あれ……? 知らない人がいっぱいいるんじゃないの……?」


「そうだったんだけどねぇ。急にみんなどこか行っちゃんだよ」


俺は両親にこれまでの経緯などを細かく話し、迷惑かけたことを謝った。


「そうだったのかい。まぁ、人のうわさも75日って言葉もあるしね。

 きっとあんたをネタにするのに飽きたんだよ」


「……そうなのかな」


あれだけネタを探していたのに、鎮静化が急激すぎて不気味だった。

やじうまMAPを久しぶりに起動すると、警告画面が表示された。


「ストアに最新バージョンがあります。

   アップデートしてください」


やじうまMAPのアップデートをすると、新機能が追加されていた。




【新機能】

注目される投稿を行った人の情報がMAPに表示されるようになりました。



アップデート後、人気者になりたがる人は誰一人いなくなった。

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