無能探偵、現る(後編)

「やっぱお前だったか天久」

「そんな状態でご苦労様だね笹じい」


脂汗を流しながら傷口を押さる笹島に、黒尽くめの男・天久は薄ら笑いを浮かべてヒラヒラと手を振る。


「お前が首を突っ込んで来るのはいつもの事だが、今回は部下の命を救ってもらった。上司として礼を言わせてもらう」

「まぁ成行きだけどね」

「笹島さん。この人誰ですか?」


笹島を支えるように肩を貸す八代が、不信な目を天久に向けながら尋ねる。


「さっきからその調子なんだけど、仮にも命の恩人に向ける目じゃないよ。ちゃんと教育してるの笹じい?」

「お前が余計なこと言ったんだろ。ただ、無鉄砲にMADを追いかけたのは俺の監督不行き届きだな。八代、お前は後で説教な」

「す、すいません……」


上官の目になる笹島を見て汐らしく頭を下げる八代。


指示に背いてまで追跡をしたのに、そこで何も出来なかった自分がさらに不甲斐なく八代は感じていた。


「さて。お守りも笹じいに返したし。俺は行くね」

「待て天久。今回のあれは"フェーズ2"だ。単独で臨むよりも俺らと共同戦線を張る方が効率がいいはずだ」

「笹じいはそうやっていつもオレを懐柔したがるけど無理だって。獲物は同じでも警察そっちとこっちじゃ目的が違う」


まんじりと顔を付き合わせる天久と笹島。その不穏な空気に八代が割って入る。


「あの、その"フェーズ2"ってなんですか?」

「MADの対処難易度だよ。フェーズ1からフェーズ3まである。1は人化して殺意のままに人を襲う。2になると殺意はそのままに知性が現れる。3までいくとそのMADに人格が生まれる。そうなると能力値も爆発的に向上してほぼほぼ手が付けられなくなる」

「なら一層単独ではなく、我々と組織的に動いた方がいいんじゃないですか?」

「組織的にねぇ。そっちはお世辞にも万全な状態には見えないけど、それでフェーズ2あれをどうにか出来るの?」

「そ、それは……」

「尻もちついて死にかけてたのに?」

「うぅ……」

「そういうことで、もういいかな?」


明らかな皮肉を込めた言葉を残して、天久はその場から悠々と立ち去って行った。


「いいんですか笹島さん!?あの人ホントに一人で行っちゃいましたよ!?」

「あぁ。マズイな」

「我々で苦戦を強いられてるんです。あの人が一人でMADと交戦してたのには驚きましたけど、ここはやはり人数掛けて何か作戦を立てないとあの人だって返り討ちに遭う可能性だってあると思います」

「違うんだ八代。そうじゃなくて、マズイのは俺らの方だ」

「え?どういう事ですか?」


話の腰を折られたように首を傾ける八代。それを見て溜め息混じりに笹島が言葉を続ける。


「このままだと、証拠物件である凶器そのものが壊される」

「凶器が壊される?」

「そうだ。天久は決して俺らの味方ではない。アイツはMADだけを生業にする異質な"探偵"だ。お前にもそう名乗っていただろう?」

「はい。"無能探偵"だと」

「それは俺ら警察側が天久を揶揄している言葉だ。まぁそれを本人も使ってるんだが、根本的にアイツは探偵という枠で動いてないからそう呼ばれている」

「探偵の枠で動いていないって、よく分からないんですが……」

「アイツは一切推理の類はしない。出来るのかどうなのかもこっちとしては分からないがな」

「推理をしないんですか?」

「お前も見たんだろ?平然とMAD相手にやり合う姿を」

「はい……。ちょっと常軌を逸してました」

「そうだ。アイツはある種人間じゃない」

「え!?人間じゃないんですか!?」

「違う違う。言葉のまんま受け取るな。アイツはとんでもなくしてるんだ」


八代は笹島の歩幅に合わせながら、公園の出口へと向かいつつ話に耳を傾ける。付近にはすでに市民へのフォローに走る捜査員の姿がちらほら見えていた。


「正体は不明だ。だが、アイツは生身でMADとやり合う。あの特殊な体質を纏うMAD相手にだ」

「でもあの人……あの拳銃すらバラバラにしたMADの攻撃を受け止めてましたよ?生身っていったっておかしくありませんか?」

「アイツの身に纏っているのは対MAD用にオーダーメイドした特注品だ」

「特注品?」

「衣類には特殊な製法で作られた鋼の糸を織り込んでいて、靴は鉛で出来ているって話だ」

「なんですかそれ!?そんなのあり得るんですか?」

「俺らだって最初は同じ感想だったさ。でも現にこの目で見ちまっている以上そこを疑っても仕方がねぇ。しかも総重量50キロ超えの装備であの動きをするんだから、『人間離れした奴』っていう認識以外はもうチマチマ疑ってちゃキリがないんだよ」


天久の人となりを聞いて軽く絶句する八代。自分自身もまさにその現場で天久の存在を目の当たりにしている以上、整理が追い付かない頭でどうにか理解はしていた。


「俺はそれなりに顔を突き合わしちゃいるが、上層部はアイツを目の敵にしている。その一番の要因が天久の目的にするMADだ」

「殲滅……ですか」

「そうだ。そんなんだからアイツとウチとはどうもいざこざが絶えないんだよ。MADの殲滅=凶器の消滅だからな。危険分子を排除しているという大義名分があったとしても、証拠を失くされたんじゃ警察の面目が丸潰れってわけだ」

「どうしてそんな事を……」

「なんでだろうな。理由は分からない。だが、何をしたってアイツの目的は揺らがない。敵対はしていなくても相対する仲。気が付けば、探偵らしい事を何一つしない厄介者ってことで"無能探偵"と呼ばれ始めたってわけだ」


なぜだかバツが悪そうに話をする笹島に、八代は少し疑問に感じる。


「笹島さんはそう思ってないんですか?」

「ん?あぁ、どうだろうな。規格外の男には違いはねぇし、証拠も失くされるのは正直困るんだが……ただ、どうにも憎めない感じだけは拭えなくてな。まぁ、俺もよく分からん」

「……そうですか」


考え込むように視線を下へ落とす八代。肩を担がれながら笹島はそれを訝し気に覗き込む。


「……八代お前、変なこと考えてないよな?」

「え?いや、そんなこと考えてません。一切何も。はい」

「隠し事っつーか、お前は取り繕うのが下手なヤツだ。変な気起こすんじゃねぇぞ?」

「……笹島さん。警察官としての私を信じて下さい」

「八代?」

「すいません!笹島さんをお願いします!」

「おい!?八代!!」


近くにいた捜査員に笹島の体を預け、一目散に停車していた車に乗り込む八代。慣れない手つきでマニュアルレバーを動かすと、車体が揺れるような急発進で車を走らせた。


遠ざかる笹島の怒声もすぐに聞こえなくなる。


少し前のめりにハンドルを掴む八代は、横目でチラチラとナビに表示されている位置情報を確認する。


自分たちがいた公園よりかなり距離が離れており、MADの移動速度に改めて驚く八代。それでも自分の運転ギリギリの速度で追えるよう、自分なりに目一杯アクセルを踏み込む。


その間も無線からはリアルタイムで現場の状況が伝えられる。


すでにフェーズ2と判明したMADを相手に、万全の装備を揃えた捜査員達が決死に対応しているものの、知性を持ったMADに決定打を与えることが出来ず次々と関門を突破されているようであった。


すると、突如してMADの反応がナビから消える。驚いて車を急停止させた八代のもとに、無線から分析情報が流れ込む。


『各位に報告。対象は地下へ逃走した模様。繰り返す。対象は地下へ逃走した模様。それぞれで近隣住民の安全確保を優先させつつ、辺りの警戒を強め奇襲などに備えよ』


無線の情報を聞く八代は参ったようにハンドルに額を押し付ける。ナビ頼りであった八代にとって早くも八方塞がりの状態になってしまう。


感情と思考が絡み合うように八代の内心は逸る。取り逃がした自分のミス。何もする事が出来なかった不甲斐なさ。救われて皮肉と正論を突き付けられた悔しさ。何重にもなる自責の念が八代の気持ちを捲し立てる。


「ふーーー……」


八代は、内に溜まった劣情を外に吐き出すように長くゆっくりと息を吐く。


「今の自分に出来る事……今の自分に出来る事……反応が消えたあの辺って確か……」


呟くように自分に言葉を投げ掛けて、八代は再びアクセルを踏み込む。


本部からの情報はないまま車を走らせ、八代は人気のない古びた建物の前で停車した。


そこは稼働していない精肉工場。扉の貼り紙には休業中の文字がある。


八代が向かった先は守山 悟が事件を起こしたその現場。守山が職場としていた工場であった。


何か確証があって来たのではない。八代がそこに来た理由はただ一つ。『現場百遍』。反応が消えた近くに事件現場があったからまずそこから。そんなシンプルな考えであった。


ダッシュボードに常備してある拳銃を使用済みの特殊拳銃と入れ替え、八代は貼り紙のある扉から中へ侵入する。


「……ごくっ」


慎重に一歩一歩押し進んで行く。中は焦燥感を煽るほど静寂で、ずっと自分の歩く音しか聞こえない。


時間の経過と共に高まる緊張感に襲われながら、一つ一つの部屋を確認していく。最後にメインの作業場であろう部屋を確認して八代は張ってた肩をストンと落とす。


「見当違いか……」


短い溜め息を一つ吐いたその直後に、背筋をなぞるような悪寒が走る。慌てて振り向くと、そこには自分に手刀を振りかざそうとするMADの姿があった。


「いたっ……!?」


寸でのところで身をよじるも、MADの振りかざした手刀は八代の左腕を掠めて特殊防具服を破って肉を斬った。


幸い傷は浅かったが相手からの不意打ちに驚いたのもあって、その痛みは通常よりも鋭敏に感じてしまうほどであった。


自分の推察が当たったものの、不意を突かれ、またしても出鼻を挫かれてしまった八代は対峙するその化物に追い込まれて呼吸が荒くなっていく。


それでも警察官としての誇りがホルダーの拳銃に手を伸ばさせる。


「あっ……!」


拳銃に触れる間もなく相手に一瞬で間合いを詰められ、拳銃もろともそのまま肉を抉られる八代。激痛に顔を歪めその場に倒れ込む。


敵は明らかに八代の攻撃手段を断ちに来ていた。狙ったように攻撃手段を奪われ、一矢報いる事も叶わずに倒れるその自分の無力さに、改めて八代は打ちひしがれてしまう。


「なんで、私は……!」


自責の念を吐露する八代。それを見下ろす赤瞳が薄暗い室内に妖艶に光る。


ゆっくりと八代に近付き、首元を狙うように手刀を頭上へ掲げる。


「はいそこまで」


鈍い金属音が室内に響き渡る。八代が顔を上げると、見覚えしかない黒一色の男が自分の目の前に立っていた。


「天久……さん」

「なーんでここにいるかなー。ちょっと驚いたよ」


頭を掻きながら呆れたように言葉をかける天久。八代は抉られた傷口を押さえながら天久に顔を向ける。


「警察官ですから……」

「ここに当たりをつけたのは中々だけど、見つけてやっぱり返り討ちにされるんじゃ目も当てられないねー」

「……返す言葉もありません」

「身に染みて分かってると思うけど、【刃タイプ】は文字通り全身どこででも相手を斬りつける事が出来る特質がある。そんな相手に堂々と密室で勝負するとか無謀でしかないんだけど」

「それも……返す言葉がありません。でも、警察官として何もしない選択肢は私の中に無いんです。勝算が無くても、自分の正義に従いたいんです」

「……こりゃ笹じいも苦労するね」

「笹島さんに責任はないです」

「上司だとそういう訳にはいかないでしょ、ってはい屈む!」

「え!?」


有無も言わさず頭を押し込まれる八代。それと同時に聞こえる銃声。


ゆっくりと顔を上げると、MADがいつの間にか八代から奪っていた拳銃を使って発砲していた。


「攻防一体の刃ボディで接近戦が十八番なのに、そんな風に器用に銃とか使えるんだ。こりゃビックリ」


さらにもう1発、天久に照準を絞って撃ち込まれる。天久はタイミングを計って体を動かしそれを回避する。


「自慢の接近戦はヤバいと踏んで刑事ちゃんの銃奪っての遠距離攻撃か。知性あるとそれはそれで厄介だな」

「-------」

「一応忠告しといてあげるけど、よーく考えて撃ちなよ?それリボルバーだからあと4発だぞ?」


躊躇いもなく引き金を引くMAD。今度は続けて2回。


それでもさっきと同じ要領で体を動かしそれを躱す天久。


「引き金のタイミングにさえ気を付けてれば避けられるんだよねぇ」


口で簡単に言う天久であるが、それが決して容易ではない事を八代は実感していた。


常軌を逸した身体能力と動体視力。それがあって初めて出来る芸当である。


「ほらあと2発……」


天久が煽るよりも先に銃を構えるMAD。その銃口は八代の方に向けられていた。


「マジかよ」


引かれる引き金。その銃声と共に八代の前に滑り込んで身を挺した天久が、力なくその場に倒れ込んだ。


「う、うそ……」


身が震え出す八代。天久は起き上がる素振りもなく横たわる。


何も出来ないどころか囮にされて天久の足枷となったそんな自分の非力さを、八代は呪わずにはいられなかった。


「天久さん……!天久さん……!!」


声をかけ体を揺するも反応はない。


その悲愴の余韻に浸る事も無く、MADが再び八代にその銃口を向けた。


八代に出来たのは敵から目を逸らさない事。それだけだった。もう悪足掻きでしかない自分の行動を責めつつ八代は眼前の敵を睨み付ける。


外さぬよう顔から数センチのところまで銃口を近付け引き金に指をかけるMAD。そのままきっかけもなく引き金を引いた瞬間、乾いた空音が拳銃から響いた。


「はい残念!」


空音と同時に体をバネのように跳ねさせ相手の顎に蹴りを放つ天久。上体がグラつく相手に間髪入れずに掌打と蹴りの連撃をこれでもか叩き込む。


サンドバック状態で攻撃を受けたMADは、やがて脱力したように膝が崩れそのまま地面に倒れ込んだ。


「ふぅ。案外タフだな。50発ぐらい打ち込んだぞ」

「え……?どうして……?」

「いやいや。そんなに驚くことじゃないから。自分の拳銃の事ぐらいちゃんと把握しときなよ」

「ど、どういうことですか?」

「君らの銃って1発は空砲でしょ?まぁ普通は一番最初が相場だけど、君の銃は空砲位置が最後になってたよ。だから今回はそれを利用させてもらいました」

「え?でも、その前に撃たれて……」

「あぁ。痛かったよね。やっぱキャッチは」

「へ?」


開かれた左手からポトリと銃弾が落ちる。


「1発くらいなら集中すれば取れる」

「うそでしょ……」


あっけらかんとする天久の言葉に、八代もただただ呆気に取られてしまう。


「空砲とかを気にする知性まではなかったようで、お前もまんまと引っ掛かってくれて助かったよ」

「-------」

「さて。じゃあ締めといこうか」

「あ、ちょっと待ってください!何をする気ですか?」

「そりゃ仕留めるよこのまま」

「本気ですか……?」

「もちろん。それがオレの仕事だしね」

「仕事って……そのままそのMADの身柄を引き渡すのじゃダメなんですか?」

「ダメだね。仕留めないと仕事にならない」

「渡してください。このままだといつか警察も敵になってしまいますよ?」

「悪いけど、警察の顔色を窺って生きてないんでね。オレはオレが受けた依頼を全うする。そんだけ」


八代には一切目を向けず、コートのポケットから細くて黒い杭のようなものを取り出す天久。そしてそれを躊躇なくMADの心臓に突き刺した。


「AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


杭を打たれ雄叫びを上げながら悶えるMADが、次第に体が粒子になっていくように薄ぼんやりとなっていく。向こうが透けて見えるくらいになると、MADの中から火の玉のように揺らめく白い光球が天久の周りを旋回し始める。


光球は旋回しながら徐々に大きくなっていき、気付くとその光球は女の姿へと変わって天久と八代の前に現れる。


『ありがとう……』


声が無くてもそう読み取れるように口を動かして、その女は二人の前から消えていなくなった。


「え……?あれ?今のって、守山に殺害された被害者の……」

「その内の一人だった人だ」

「どういう事ですか一体!?」

「守秘義務」


そう言うと、服についた汚れを払いそのまま出て行こうとする天久。それを八代は慌てて引き留める。


「お、お願いします!教えてください!なんで被害者の女性の姿があったんですか!?」

「お断りです」

「教えてくれないと、これを笹島さん達に見せます」


そう言うとLECの表示がされているスマホの画面を天久に見せる八代。


「警察には知られたくないものなんじゃないですか?」

「……あの状況でそんなの撮ってたの?もっと違うことに力を注ぎなよ」

「私だって、そう思います」

「……」

「……」

「……じゃあ君ら警察が知らない事を一つだけ。MADは放置された凶器に潜む殺意によって生まれる。って事になってる」

「え?なってる?」

「でも、殺意だけじゃMADにはならない。そこにはもう一つピースが必要になる」

「ピース?」

「死んだ者の魂さ。殺した者の殺意と殺された者の魂が絡み合って初めてMADは人の姿を成す」

「え……?」


思わぬ話に八代は困惑を隠せずにいる。そんな八代を天久はほくそ笑むように見つめる。


「信じるか信じないかは君次第。これ以上の事は赤の他人の君に教えられない」

「ちょ、ちょっと待ってください。その話が本当なら、被害者の女性がMADに取り込まれていたって事ですか……?」

「そ。MADに取り込まれいる間は殺意との共存。自分が殺されたのにも関わらず全く関係のない人を襲う。それはオレらには想像も出来ない苦しみかもね」

「もしかして……天久さんはその被害者の魂を救うためにこんな事をしてるんですか……?」

「言ったろ?依頼だって。ある人から頼まれた大事な依頼だ。だからこれは仕事以上の意味は持ってないよ。それにね。死んでしまっていたらもうそれは救いじゃない。死なずに済む事が一番の救いなんだよ」

「そうかもしれませんけど……でも、過程はどうあれ彼女は救われたんだと思います。だったらそれは恥じる事でも隠す事でもないんじゃないでしょうか?」

「俺は救ったと思ってはいないし、救えるとも思ってない。なんたってオレは"無能"だからね」

「そんなこと……この真実を知れば他の警察のみんなだって理解を示してくれるはずだと思います」

「それは無理かな。どう足掻いたって俺と警察そっちは分かり合えないと思うよ。俺にもエゴがあって、そっちにも組織としてのエゴがあるんだから。そんなんで、今日の事はキッパリと忘れるように」

「え……?あ!!」


いつの間にか取り上げられていたスマホを放り返される八代。中を確認すると、データを見事に消されていた。


「じゃあね。また会わないことを互いに祈ろう」


ヒラヒラと後ろ手に手を振りながら天久は立ち去った。


「エゴに勝てないなら、私だって"無能"じゃないですか……」


今日で何度目かも分からない劣情を抱く八代の脳裏には、"無能"を背負う男の背中が焼き付いて離れなかった。

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探偵は無能を背負う 結城あずる @simple777

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