第2話
チームTNKにもう一つチームが出来た。
俺にも兄弟が出来たのだ
まあ、クラスは違うが。
クラスは、MOTO3クラス(250cc)だ。
ちなみに俺はMOTOGPクラス(1000cc)。
一番上のクラスだ。
もういい、お兄ちゃんはあっち行ってて。
自己紹介くらい自分でするから。
ま、まて、おれはお前が心配なだけだ。
妹を心配するのは兄の義務だからな。
いいからお兄ちゃんはあっち行って、自分の心配でもしてて。
はあ~いい加減妹離れしてくれないかなあ。
どうもすみませんでした。
わたしは、TNK GP250といいます。
去年はどうも兄がすみませんでした。
おそくて。
でも、お兄ちゃんは、ほんとはもっと早く走れるはずなんです。
風のように。
ただ、チームがダメダメ、ライダーもダメダメで、その実力が発揮できていないだけなんです。
だから、今年は私がTNKのバイクはほんとは早いと証明して見せます。
はじめはこのチームで走ることに抵抗がありました。
お兄ちゃんがあんな目に会っているから。
そしてテスト走行には、おでこの広いショートカットの女の子がやってきました。
その女の子がお兄ちゃんのライダーの妹だと知ったときは、私は終わったと思いました。
これから、恥をさらし続けるのかと。
でも、その女の子はとてもバイクの運転が上手かったのです。
それだけではありません。
テスト走行に関わった自分のチームの人間を一掃し、自分でメカニックなんかを探してきました。
そして、チームの大改革をやってのけました。
次は、私の見た目です。
訳の分からない角が生えたカウルから、角をったカウルの形をもとに、空力を自分たちで考えてくれたおかげで、私は生まれ変わりました。
チューニングも的確に指示してくれます。
テスト走行のタイムも、大幅に縮みました。
この子一体何者だろうと思いましたが、わたしには関係ありません。
そんな女の子の名前は、堂本 沙也加(どうもと さやか)。
私のライダーです。
「沙也加の姐御、おひさしぶりです」
ん?あねご。
「うん、みんな久しぶり。でも、その姐御っていうのはやめてくれえないかな」
「なにいってんすか。峠のいかずち、峠の女豹と呼ばれた姐御がそんなことを言うなんて。前はみんなそう呼んでたじゃないっすか」
「うわ~っ、ごめんごめん。それ以上言わないで。姐御でいいから」
とうげのいかずち。
めひょう。
なんか沙也加は、危ない女の子だったようです。
「それで今日はどうしたの」
「はい、陣中見舞いです」
「ありがと」
「ではこれで。久しぶりにみんなに会えてうれしかったです。姐御の走り楽しみにしてます」
みんなに会えてか。
なんで女の子ばかりのチームだと思ってたけど、チームのみんなとは以前から知り合いだったのか。
そして、チームTNKWの初のレースの日がやってきた。
1日目のフリー走行は20位。
観客からはどよめきが起こっていた。
沙也加は納得していないようだった。
「緊張してうまく走れなかった。ちっ、くそが!」
仕方ないよ沙也加。
初めてのマシンのお目見えで、ライダーも新人なんだもの。
明日の予選は頑張ろ。
沙也加の落ち込みようを見たメカニックたちは、遅くまで私をチューニングしていた。
2日目の予選が始まり、ピットから出る準備をしていると、他のチームのマシンが話しかけてきた。
「昨日いい走りしてたね。今日もがんばろ」
お兄ちゃんは、ホソダのマシンは陰険だからと言ってたけど、いいひとだった。
「今日は負けないからね。覚悟しててよね」
この子はススキのマシン。
この子もいい子だ。
「新人にしてはいい走りしてたね。でも私は負けないから」
この子もいい子だ。
外国勢も、何言ってるのか分からないけれど、嫌な子はいなかった。
そして、私と沙也加はピットを出て行った。
タイヤが温まると、ホームストレート前からアクセルを開けてゆく。
そして全開。
200km以上でホームストレートを通過すると、ブレーキをぎりぎりまで我慢してコーナーを回って行く。
膝はもう地面と擦りそう。
私の方が怖くなってくる。
沙也加は自分のタイムを2周目に更新し、それがベストタイムとなり、ポジションは7位スタートとなった。
メカニックたちは、7位スタートを喜んでいたけど、沙也加は不満げにしてた。
今にも舌打ちが聞こえそうなくらい。
その夜、メカニックたちもそれに満足することなく、沙也加を中心に最後のチューニングをしていた。
本戦のスタート前は、沙也加は興奮気味。
仕方ないと思うけど。
スタートしてすぐに2台を抜き、沙也加は5位に上がった。
前を走るのは、先頭にホソダ、ススキ、ヤマダ、アップルアの外国車、そして沙也加という順になった。
今は5週目。
ホソダにススキが仕掛けてる。
それを、後ろの私たち3人は見守る。
8週目にススキが前に出るとホソダは4位まで後退し、つかず離れずで追走する。
それからは、入れ代わり立ち代わり先頭は交代していく。
25週目に入ると、アップリアが徐々に後退していった。
「よし、1台目」
うん、もう少しの辛抱だよ沙也加。
30週目。
ススキとヤマダのペースが落ちてきた。
それを逃さずホソダは一気にカーブでインをついて抜いて行った。
沙也加もそれに続くつもりだった。
沙也加あぶない!
ススキのバイクが前で転倒し、抜くことが出来なかった。
順位は上がったものの、ホソダとは差がついてしまった。
次のカーブでヤマダを抜くと、沙也加はホソダを追う。
沙也加はホソダを追うために、超攻めの走りをした。
さ、沙也加。
2位なんだから、そこまで攻めなくてもいいんじゃない?
差はなかなか埋まらない。
しかし、あと2周というところで、ホソダのカーブでのグリップが悪くなった。
するとぐんぐん差が埋まっていった。
序盤、後方で抜くことをせず、ひたすらタイヤを大事に走った差がでてきた。
「よし!」
さすが沙也加。
作戦勝ちだね。
それでも相手は百戦錬磨。
なかなか抜かせてもらえない。
最終週。
インを突こうとしても、ブロックされる。
アウトから行こうとしても、そこまでタイヤの消耗の差はない。
ぐぬぬぬぬ~。
このライダーうまい。
沙也加よりTNKGP250のほうが、苛立っていた。
沙也加の方は、ホソダの後ろにピタリと着いたまま離れず、最後の直線に賭けていた。
ねえ沙也加どうしたの。
もっと仕掛けなきゃ。
ねえってば
TNKGP250の声が聞こえていたら、黙れと怒鳴られていたに違いない。
最終コーナーに入り沙也加はアクセルを開ける。
そして、出たところで全開。
アウトから仕掛けた。
あとはマシン次第。
ぐぬぬぬぬぬ~
負けてたまるか~~!
フラッグが振られ、2台はゴールした。
優勝は、タイヤ4分の1の差で、沙也加が優勝した。
ウイニングランをホームストレートでしていたとき、沙也加は嬉しすぎてアクセルを全開に開けてしまい、ウイリーを通り越して1回転してしまったのだった。
こんなドジっ娘ライダーが、その年のルーキーオブザイヤーを獲ったのだった。
そしてこのドジっ娘ライダーは、その後もMOTOGPで活躍することになる。
GPの風になりたい 秋峰 @systs239
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