おてつだい
真信は深月からスマホを投げ渡され
最初は自分でかけようとしていた深月だったが、数秒固まってからスマホを放り投げた。呪術者と文明利器は相容れないと語っていたばかりだ。まさか使い方が分からないのかと尋ねると、
「苦手なだけだよー。……我ながら操作が遅いから。適材適所で」
と返答され、真信は不安の出所もわからぬままに安堵した。
深月のスマホには一件しか連絡先が見当たらなかった。「おじさん」と登録されたそれを選択して着信ボタンをタップする。
通話に出た男に深月の言葉をそのまま伝えた。源蔵の声はやけに聞き取りづらい。それでもなんとか必要なことを伝え役割を果たした。
『ああ、こちらでも場所は把握した。真信君、君はそのまま深月について行きなさい、いいね』
最後にそう付け加え一方的に通話を切られた。
真信は暗くなった画面を見ながら源蔵の言葉を
これが仮に平賀の仕事ならば、対象を誘きだした時点で真信の役目は終わりのはずだった。餌役はその機能を果たした時点で離脱が基本だ。でなければ敵に利用し返される可能性があるからだ。
それを源蔵は、真信にまだ付いていけと言う。
(……あの男は僕の素性を調べたはずだ。……つまり僕に深月の手伝いをしろっていうこと? けど僕には狗神みたいな奴らの相手なんてできないけどな)
真信が学んできたのはあくまで人との交戦術に過ぎない。人智を越えた化物の相手などやってられない。
首をひねり他の可能性についても検討しようとしたが、その前に話しかけられ思考が途切れた。
「真信ー。おじさんなんだって?」
「えっ、あぁ。了承とれたよ。それと僕もこのまま一緒に行けってさ。……何か手伝えることあるのかな?」
あの白ずくめの男の考えは読みづらい。ならばと目前の少女に探りを入れる。真信を利用したいなら、少女から何か引き出せるはずである。
「んー? うーん特にないと思うけど……」
深月は「手伝え」とは一言も言わなかった。真信を連れていくことに反対しようともしなかったが。
狗神の頭頂部に腰かけた深月は隣に真信を乗せた。耳と耳の間にはもう隙間がないので、真信は腹這いになってしがみつく。
狗神の感触は硬いゴムのようだった。匂いもしない。やはり生き物ではないのだ。
深月が巾着から取り出した札で
高名な巫女が書いた札なので、術者が念を込めれば
準備を整え少女が狗神の頭を叩いた。狗の頭が身震いするように小刻みに動いて浮上する。
飛び立つ直前。深月はふと思い出したように不思議な願いを真信へ向けて口にした。
「そうだ一つだけあった。────もし私が喋ろうとしなくなったら、声をかけてくれると助かる、かなー」
「そんなこと? うんわかった」
真信には彼女の言葉の意味するところは分からなかったが、大事な理由でもあるのだろうと考え、深く追求しなかった。
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