ティッシュを食べる、という奇怪な題材が奇抜になりすぎることなく、けれどその不可思議な味わいは充分に郷愁の中に溶け込んでいて、たいへん心地よい物語でした。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、さりげなく登場するある言葉が終盤で回収されて、とても心に響きます。
その言葉の意味がどうこうというよりも、ずっとその言葉を胸にしまっていたのだということ、そしてそれが自然とこぼれ落ちたということが、爽やかに胸に来ます。
とても上手いし、とても良いと思いました。
シュールなユーモアも散りばめられています。
そもそも、「ティッシュを食べる」ことがまずシュールですし、それを料理して食べてみようという発想、実際に調理する様子、食べる様子、そして放り込まれる幻想的な記述(シュルレアリスムというのかマジカルリアリズムというのか…)。
それらが見事に調和して、日常にはありえないのに、どこかで起こり得るような気配を醸し出し、郷愁を呼び起こすまでに至っていて、本当に素晴らしい筆致だと思いました。