スズメのススメ

シグマ

仲良し三羽の一日


[スズメの1日に密着取材した視点でお送りします]


■■■


 早朝の朝日が昇り始めた頃。スズメ達はいつものように早起きして動き出す。


「チュンチュン……おっと今日は人間にも分かるように喋らないといけないのか」

「チュンスケはおっちょこちょいだな。それに引き換えチュンザブロウは全く動じてないな……って何で俺たちの米まで食べてるんだよ!」

「ゲップゥー。お喋りに夢中だったからもういらないのかなと思ってね。ごめんよぉ」


 三羽分のお米を平らげて、お腹が膨れているチュンザブロウ。


「全く、なら今日の朝礼はチュンザブロウがやってくれよ」

「はぁーい」


 体重過多で動きが遅いチュンザブロウ。


「チュンチュン」「チュンチュン」

「チュンチュン」「チュンチュン」

「チュンチュン」「チュンチュン」……


 スズメの朝礼とは、人間の町内を飛び回り囀ずり声を聞かせることで、人間の気持ちの良い目覚めをサポートすることだ。

 住み処や食べ物を提供してくれる人間へのスズメなりのささやかなお返しである。


 町内を一周したチュンザブロウが帰って来た。


「ううう……」

「どうしたチュンザブロウ! 体調が悪いのか!?」

「お腹が減ったよぉ」

「それは俺たちもだよ! ならちょっと早いけどいつもの所に行こう!」


 いつもの所というのは、餌をばら蒔いてくれる人間がいるところだ。

 スズメに対してくれる時もあれば他の生き物への餌の時もあるけど、基本的に人間はスズメに優しいので何をやっても怒られない。


「チュンチュン! 一番乗り!」


 チュンスケがベンチに座る老人の前に止まる。そして遅れてチュンタ、さらに遅れてチュンザブロウがやってくる。

 ウトウトしていて気づいてもらえないので囀ずり声でお米を要求する。


「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」「チュンチュン」


いくらやっても目覚めてくれない。


「ババア目覚めやがれ!」

「おいチュンタ、素が出てるぞ!」

「おっと失敬失敬。それにしても起きないな」

「諦めて他に行こうぜ」


 お婆ちゃんからお米を貰えなかったので、諦めてやって来たのは草原だ。

 ここには食べられる草とか虫とかが一杯だ。


「でも最近こういう場所が無くなったよな」

「近くにあった田んぼも無くなっちゃったからなー。あの柔らかい生穂が懐かしいよ」

「よし、今日は田んぼを探しに行こう!」

「いきなりどうしたんだよチュンスケ。カメラがあるからってテンション上がりすぎじゃないか?」

「でもチュンタも食べたいでしょ?」

「僕も食べたいよぉ」

「全く……俺も食べたい」

「なら行こうぜ!」

「でもどうやって田んぼを探すんだよ」

「とりあえず高いところに言ってみようぜ!」


 田んぼを見つけるために近くの山にやって来た。


「ねぇ、ホントにこの山の上に行くの? もう疲れたよ」

「弱音を吐くなよ、美味しいお米を食べたいだろ?」

「うん分かった、頑張るよ」


 チュンタ、チュンスケ、チュンザブロウにとって始めてきた山なので三羽は不安に包まれているが、お調子者のチュンスケが先陣を切って飛んでいく。


「ギャァァァ!」


 チュンスケはクモの巣に絡まってしまい、地上に落ちてしまった。


「おーい、大丈夫か?」

「うへぇ、ベトベトだよ」

「モグモグ……敵はとっておいたよぉ」

「あっずるいぞチュンザブロウ! 一人でクモを食べちゃうなんて」

「食べちゃったものは仕方ないんだなぁ」


 いきなりトラブルに見舞われたのだが、何とか山の山頂にたどり着いた。


「お腹が空いたよぉ」

「我慢しろ、俺たちだってお腹が減ってるんだ」

「そんなことよりほら! あそこに田んぼがあるぜ!」


 チュンスケが田んぼを見つけたようなのでチュンタが近くまで飛んでいき、一緒に確認する。


「おお、本当だ! おいチュンザブロウもこっちに来て確認してみろよ」


 声を掛けるのだが返事がない。どうしたのかと振り向いてみると、タカ目タカ科のツミの野郎がチュンザブロウを襲っている。


「「チュンザブロウー!」」


■■■


 チュンザブロウが襲われていることを見てからは無我夢中で必死の戦いだった。

 お遊びで習得した、チュンタとチュンスケのツインスピンアタックがこんな場所で活きることになるとは思わなかった。


「チュン……お腹が減ったよぉ」

「こんな時までいつも通りなんだな……。でも無事で良かったよ」

「でも僕もお腹が減ったよ、早く米を食べたいけど、その前に何か食べなきゃ倒れちゃうよ」


 お腹を空かせて困っていると、急にやって来た鳥に話しかけられる。


「お前らこんなとこで何をやってるんだ?」

「「「ハイガシラ先輩!」」」


 やって来たのはミナミハイガシラスズメだ。


「お腹が空いて困ってるんです。どこかに食べ物はありませんか?」

「縄張りを出てきたお前らが悪い……と言いたいとこだが、ほっとけば食べられかねないからな付いてきな」

「「「ありがとうございます!」」」


 普段来ることの無い山だが、ここで逞しく生きているスズメの仲間に助けてもらって、空腹を満たすことができた。


「先輩はアフリカからやって来たんですよね?」

「ああ、鉄の鳥に乗せられてここまでやって来たんだがあの時は死ぬかと思ったぜ」

「あの鉄の鳥に乗ったんですか! かっけぇ!」

「アフリカからやって来て、なんでこの山で暮らしているんですか?」

「気づいたらこの山に連れてこられて解き放たれたんだよ。巣に帰りたいとも思ったけど、飛行距離に限界があるからな。今では自由な生活を満喫してるけどな」

「へぇー、色々とあったんですね」

「そんなことより早く田んぼに行こうよぉ」

「おいチュンザブロウ、失礼だろ!」

「何で田んぼとやらに行くんだ?」

「そうか、ハイガシラ先輩は米を食べたことが無かったんですね。あの実って直ぐの米の美味しさは他には代えがたい美味しさが有るんですよね」

「それは興味があるけど俺は肉食系だからな、今さら草食には戻れないな」

「そのポリシーかっけぇっす!」


 チュンスケが憧れの眼差しを向けているが。そんな生活を遅れるのは森だからだ。

 都市部に住むチュンタ、チュンスケ、チュンザブロウは雑食で何でも食べないと生きていけない。


「今日は助けていただきありがとうございました!」

「良いってことよ。同じ仲間だからな」


 そう言い残しハイガシラは飛び去っていった。


「はぇー、やっぱり人に頼らず生きてるのってカッコいいよな」

「でも人間がくれる食べ物の方が美味しいんだなぁ」

「チュンザブロウは食べ物のことばっかりだな。でも早く田んぼに行こう!」


 山で色々と巻き込まれはしたのだが、無事に三羽は先ほど見つけた田んぼに向かって飛んでいく。


■■■


「あそこだ!」


 またしてもチュンスケが一番乗りして到着しようとするのだが、誰かに止められる。


「ちょっと待ちな! お前ら誰の許可を得てこの田んぼの米を食べようとしてるんだ!」


 声のする方を見ると、強面なスズメとその取り巻きのスズメたちが20羽電線に止まっていた。

 許可とはどういうことか聞くために、近くまで飛んでいく。


「許可ってどういうことですか? まさか人間の許可では無いですよね?」


 米を作ってくれる農家にとっては自分達は害鳥だ。近づこうものなら追い払われるのが関の山である。


「そりゃぁ俺達の許可に決まってるだろ! ここは俺達[#洲逗米須汰亜逗__すずめすたーず__#」の縄張りだ!」

「鳴く子雀も黙るチュンコスターとはこのお方のことよ!」


 取り巻きが羽を広げてチュンコスターを称えているのだが、名前があれなので吹き出してしまう。


「ぶっ……チュチュチュチュチュン!」

「おい!何を人の名前で吹き出し鳴きしてるんだ! 舐めやがって。というよりもう一羽は何処に行きやがったんだ!?」

「あれ? チュンザブロウ?」


 付いてきているものだと思っていたのだが、姿が見えない。


「おーい、チュンザブローウ! どこだー?」


 辺りを探してみると、頭を垂れている稲穂があるので近づくとチュンザブロウが既に米を食べていた。


「あっチュンタ、米美味しいよぉ! はやく食べなよ」


 それをみたチュンコスターが怒りだす。


「てめぇら、どこまでも俺達をなめ腐りやがって! 決闘だ!」

「ええぇ、そんな! なにとぞ穏便に! ほらチュンザブロウも謝って!」

「ええ、モグモグモグ」

「おいお前ら!」

「「「へい!」」」


 周りをチュンコスターの取り巻きに囲まれる。


「あわわわわ」

「なにこれ? お祭りなのぉ?」

「チュンザブロウ、そろそろ黙ろうか」

「おいお前! こっちにこい!」


 チュンザブロウが呼び出される。


「ええ、なぁに? そっちに美味しいお米があるの?」

「違う! お前が俺と決闘をしろ!」

「ええ、それって美味しいの?」

「……まぁいい。こっちに付いてこい。勝負方法はついてから話す」


■■■


 所変わって道路の側にやって来た。


「一体何をするんだ?」

「チキンレースを知ってるか?」

「度胸を試すってやつか?」

「そうだ、今からその度胸試しで勝負する。ルールは簡単だ。突っ込んでくる鉄猪にどちらが最後まで臆さずにいられるかだ」

「そんな、危険すぎる!」

「ならさっさと逃げ出せばいいんだ、もちろん米は食べさせないがな!」

「そんなぁ」


 ここで米を食べられなければお腹を空かせて猛禽類に狙われて補食されかねない。

 それにせっかく遠出して、米を食べられないなんて辛すぎる。


「嫌なら、度胸を示せ! ほら行くぞ」

「ええ、そっちに何かあるの?」


 チュンコスターが先導し、チュンザブロウが付いていく。

 チュンタとチュンスケは止めようとするが、チュンコスターの取り巻きに止められて何も出来なかった。


「無茶だけはするなよ……」


■■■


 なかなか車はやってこなかったが、遂に軽トラックがやって来る。


「来たぞ!」

「チュンザブロウ大丈夫かな……」

「大丈夫さ、いつでも平常心なチュンザブロウならきっと……」


 路傍のスズメに気づかず、スピードを緩めずに軽トラックは突っ込んでくる。


「はっ! ビビってんじゃねぇぞ!」

「うん」

「まだまだ、余裕だろ!」

「うん」

「怖ければ先に逃げればいいんだぞ!」

「モグモグ」

「もう駄目だ!」


 チュンコスターは軽トラックを避けて飛んで逃げる。

 しかしチュンザブロウは飛んで逃げた姿を確認できなかった。


「まさか、あいつ轢かれたんじゃ」


 チュンコスターの取り巻きたちがザワザワとし始める。


「「チュンザブローウ!」」


 チュンタとチュンスケが道路へ飛び寄る。


「なぁに? チュンタとチュンスケも食べる?」

「なっ! お前逃げなかったのか!?」

「えっ? 何かあったのぉ?」

「ほんと、凄いなお前……」


 道に落ちていたパンくずを見つけて食べるのに夢中で車に気づかず、車の下をくぐって無事だったみたいだ。

 だがそんな理由はチュンコスター達にはは知る由も無い。


「そんなバカな、あいつ命知らずかよ……」

「あいつこそ、スズメの中のスズメじゃないのか?」

「やべぇよ、俺らなんてスズメに楯突いてたんだよ……」


 チュンザブロウの強心臓ぶりをみて、チュンコスターの取り巻きたちの態度が変わった。


「あなたこそが、俺達のリーダーに相応しい!」

「ぜひ、俺達を率いてくれ!」

「チュンチュンチュン!」


 チュンタ達には何が何だかわからず、戸惑っているとチュンコスターが無言のまま近付いてくる。


「やべぇ、兄貴が怒ってる!」

「チュンチュンチュン!」


 このまま喧嘩になるのは嫌なので、チュンタが仲を取り持とうとする。


「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。あんな勝負はたまたまですから」

「たまたまだと? 俺がたまたまで負けるようなスズメだと言いたいのか?」

「いえいえ、そんなことありません!」

「なら黙っとけ! おい、チュンザブロウと言ったか。さっきは見事だった。俺の後を継げるのはお前しかいねぇ! 俺達のリーダーになってくれないか?」

「えぇー、何それ。そんなことより早く皆で米を食べようよ」

「おい、お前ら! 新リーダーのオコトバガ聞こえなかったのか! 早く皆で食事にするぞ!」

「「「はい!」」」


 こうしてようやく美味しいお米をたらふく食べることが出来たのだった。

 食べ終わって帰路につくチュンタとチュンスケ、そしてチュンザブロウも当然のように帰っていく。


「いいのかチュンザブロウ? ここに残れば美味しいお米が食べ放題だぞ?」

「うん。お婆ちゃんがくれるお米も美味しいからね。それに僕たち3羽はいつでも一緒でしょ?」

「「チュンザブロウ!」」



 これが『とあるスズメ達の1日』である。

 そしてまた新しい1日がチュンチュンとスタートするのであった。

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