第10話
……いつの間にか僧侶猫宅に呼ばれ、紅茶とラズベリーパイを出されていた。
煌びやかな調度品の数々に目が痛い。
全てマホガニーカラーのアンティーク。
焦げ茶より暗い色なのに、毎日磨いていそうなくらいピカピカ。
ガラスも曇りひとつない。正直居心地は最悪だ。
……待て、糞ガキどこだ。
視線を彷徨わせると、窓の外で住人と戯れている。
「……ああ、小さな小さな剣士殿は交流を嗜まれているようですにゃ。それはそうと、お味は如何ですかにゃ? 勇者殿」
物腰も毛並み以上に柔らかい。
私は考えた。短い時間で考えた。
「……よし、おまえ今日から執事担当な」
否定しないことにした。受入精神も大事。
笑っているようにしか見えない糸目がこちらを見ている。
「……かねてからそのつもりでしたにゃ。勇者殿のお世話をする日が来るのを毎日愉しみにしておりましたにゃ」
毛深い口角が楽しそうに左側だけ上がる。
そして今更名前を聞かれ、答えた。
「フランチェスカ、お嬢様……。お名前は可愛らしいですにゃ。お口を開かなければ深層の令嬢でもおかしく……眉間に皺が寄りすぎて台無しですにゃー。あ、ワタクシはイザヨイと申しますにゃ」
サラッと勇気ある発言を繰り出し続ける。
名前と顔が一致しない。
その間も窓の外では糞ガキと住人共がじゃれ合っていた。
「……イザヨイてめえ、いい性格してんな」
「お嬢様ほどではありませんにゃー」
私の威嚇にも動じないのが2人目とは。
「紅茶のお代わりは如何ですかにゃ? ハーブは何でも紅茶に出来るから育て甲斐がありますにゃー。お嬢様もおひとつ栽培をしませんかにゃ? 」
「しねぇよ! 」
「確かに最後まで育てられそうに無いですにゃー」
にゃははははは! と愉しそうに笑う。
「おちょくってんのか! ゴラ! 」
「からかってるだけですにゃー」
全く動じていない。
だが、使い用によっては……。
「……なあ、イザヨイ」
「何ですかにゃ? 」
紅茶を再度淹れながら。
「私がご主人様なんだよな? 」
「そうですにゃ~、悪い顔して何をさせたいんですかにゃ? 」
動じることなく返ってくる。
「いや?
私も負けてはいない。
……一瞬の間が出来た。
チラリとチビ助の方をむく。
「それも……心得ております、にゃ」
弄るのを愉しんでいるやつなら全員弄るだろう。
だけど、応えた声はからかってるそれではなかった。
ドキッとするくらい真剣で、『にゃ』がツボりそうに。
……一瞬、ほんの一瞬、イザヨイの顔がブレた気がした。
17、8くらいの少年、に見えた。
けれど、一瞬だったから再度目視することも出来ず。
聞くにも今じゃない気がした。
勇者は必要ですか? 姫宮未調 @idumi34
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