第9話

━━長閑な、長閑な平野が続く。


糞ガキは静かに着いて来る。

もう甘やかせてくれる者はいない。

じいさんの言っている意味が理解出来ずとも、状況は子供なりに分かったのだろう。

だけど安心してはならない。

子どもはすぐ忘れてまた悪さをする。

これがダメならこれはどうだと挑んでくる生き物だ。

……各ゆう私もガキの頃はイタズラが好きだったから。

オヤジを真似ては、母さんに怒られた。

悪いことはすべてオヤジから学び、いいことはすべて母さんから学んだ。

あの頃のオヤジは好きだったよ。


『母さんには内緒だぞ』


と悪い顔したオヤジが好きだった。

面の皮が剥がれるまでは。


優しく面白かったオヤジは姉貴の結婚を境に、手のひらを返した。

姉貴とは会話がなくなり、オヤジの手のひら返しの理不尽さに、母さんと兄貴と三人で嫌悪感を抱き始めた。

兄貴が出て、母さんだけになると、更に態度がデカくなる。何もしていないのに。


……そんなオヤジを見たくなくて、部屋に篭ったんだ。


オヤジがいないときは出てきて、母さんに謝られながら一緒に過ごした。


十余年だと思ったけど、もうそろ二十年になるのか。

時が経つのは早いな。


□□□□□□□□


……トリップしていたら、ぐいっと袖を引かれて我に返る。


「悪い、何? 」


物言わず、目の前を指さされた。

次の村が随分と近くまで見えていた。

確か、僧侶の村だったか?

次はどんな変なヤツだろうと歩みを進める。


入口近くで同時に足を止めた。

我が目を疑った。


「……服きて立ってる猫がいっぱい」


糞ガキが言ったまんま。

人間だったならば小人の村だと言わんばかり。

二足歩行の猫、それ以外は人間と何らかわらない。


「人間の旅人さん、何かお困りかにゃ? 」


気配がなかった。声のする方に勢いよく振り返る。


「ふむ。おかしな組み合わせだけれども……『勇者様』と剣士殿のようですにゃね? 」


糸目猫が笑ったままの顔で言う。

説明が省けるが、胡散臭い二足歩行猫だ。

長靴を履いた猫がそこにいた。

いや、横にチャックが見える。ブーツだ。

真っ白な燕尾服らしきものを着ている。


「……吾輩の華麗な門出、ですにゃ」


一陣の風が吹き抜けた。

……僧侶僧侶した二足歩行猫の想像が、紙切れのように吹き飛んだ。

じじいか子どもや女性の、最もなイメージなんて最初から抱いてはいなかったけれど、せめてカ⚫ン様的などっしり感が欲しかった……。

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