エピローグ
十月も終わりに近づき、今度は和樹さんちに挨拶に行く。一度お会いしているからなのか、「こんなやんちゃの子でいいのかしら」と和樹さんのお母さんに言われた。
うちは自衛官が三人いるのでと話すと驚かれたけど、なら大丈夫ねと妙に安堵されてしまった。
まあ、自衛官の嫁は大変だって聞くしね、特に海自。全く連絡が取れない場合もあるみたい……しかも、何ヶ月も。
自衛官にしろ、警察官にしろ、本当にそのお仕事を理解していないと大変だなあ、って思う。
そんな感じで和やかに挨拶をしてお昼をご馳走になり、お祖母さんのお墓参りをして帰ってきた。
そのあたりから、時々和樹さんがうちに来て、ご飯を食べて帰るようになったりもした。
そして日々仕事をこなし、十一月。
「寒くなってきたなあ……」
桜の木やイチョウから落ちた葉っぱ集めをお願いされて、金本さんや和樹さん、大山さんたち他の自衛官で落ち葉掻きをしている。
「本当よね。私たちは長袖を着ているからいいけど、紫音ちゃんは寒くない?」
「動いているので、平気です。まあ、もっと寒くなったら困りますけど……」
「確かに」
「紫音、これを着てろ」
「いえ、さすがにそれはまずいと思うんですけど……」
私は半袖の下に長袖のTシャツを着ているからそれほど寒くないんだけど、自衛官は布地の厚そうな服を着ている。いいなあとは思うものの着れるわけじゃないので、せっせと体を動かしてあっためていた。
それを見ていたらしい和樹さんが上着を脱いで肩にかけてくれたんだけど、さすがにこれはまずいと思うんだよ、和樹さん。ほら、金本さんも睨んでるじゃん。
なので慌ててそれを返し、大丈夫だからと告げて、また落ち葉を掻き集めた。
食堂の掃除をしながら時々落ち葉掻きをしていると、あっという間に十一月も終わりに近づく。そろそろ金本さんから何か言われるかなあ……と思っていたら、お昼休憩の時に呼び出された。
「ごめんね、紫音さん。ちょっといいかな」
「はい」
連れて行かれたのは面接の時に使った部屋で、そこには面接をしてくれた人と、なぜか父もいた。
……何か失敗したんだろうか。私からは喋ったことはないんだけど……。
「そこに座ってくれるかな?」
「はい」
指定された席に座り、真っ直ぐ前を向く。金本さんも座ったところで、面接をしてくれた自衛官が話し始めた。
「面接の時に期間は一年だと言った話を覚えているかな?」
「はい」
「そのことなんだが、もう一年、仕事を継続する気はあるかい?」
「え……?」
まさか、今月いっぱいで辞めてくださいどころか、一年継続と言われて驚く。
「どうかな」
「あ、あの、それはとてもありがたいですし、続けさせていただけるのであれば、お願いしたいです。だた、理由を聞いても大丈夫でしょうか」
「ああ、それは大丈夫だ。実はね……」
そう言って話してくれたのは、なんと他の隊員さんや幹部から、「掃除が行き届いて以前より綺麗だし、せめてもう一年継続してほしい」という嘆願があちこちから届いているそうだ。私の仕事ぶりが認められたみたいで嬉しい。
「そうなると、司令にも相談しなければならないからね……だから相談した結果、継続となったんだ」
「私も君の仕事ぶりは聞いているし、実際に見ているからね。私からも頼む」
「あ……。はっ、はいっ! まだまだ未熟者ですが、私でよければ、よろしくお願いします!」
珍しいことに、父が仕事モードで話しかけてくれた。食堂でも最初の日以外は話したことはないのに。
それだけ父は、公私混同はしない人だというのがわかる。
「うん、頼むね。休憩中に悪かったね、岡崎さん」
「いえ! ありがとうございます!」
「こちらこそよろしく」
席を立って頭を下げる。嬉しくて、涙が出そうだ。
金本さんに連れられて、また休憩室に戻ると、ご飯を食べ始める。
「……よかった~」
誰もいないのをいいことに、大きく息をはく。あと、もしかして、一年間の婚約期間はこれが理由だったのかな……とも思った。
こういうのってすぐには決められないだろうし、手続きとかもあるだろうしね。よくわかんないけど。
お昼の食器洗いは和樹さんと一緒だったから、こっそり教えることにした。
「あのね、詳しいことはあとで話すけど、あと一年、ここでお仕事できるようになりました」
「ほんとか⁉ よかったな、紫音」
「うん」
「俺も嬉しい」
まだ数人しかいないから、小さな声で話す。和樹さんが喜んでくれて、私も嬉しい。そのうち、金本さんあたりから話があるだろうから、それまでは黙っててほしいとお願いし、明日のデートの予定を話し合った。
まあ、途中で慌しくなっちゃって、それどころじゃなくなったけどね。
翌日はデートして、夜は抱き合って。その翌日は金本さんから話があり、「あと一年、よろしくお願いします」と糧食班の人や手伝いに来ていた人たちに挨拶をした。
年末には両家で食事会を開き、式場はどうするかなどの話し合いをした。私も和樹さんも服はレンタルだ。
仕事と結婚式の準備に追われて忙しかったけど、あっという間に一年が過ぎ、食堂も無事に仕事を終えた。
その時に、兄と父のことを話そうとも思ったんだけど、結局は話さなかった。父や兄にも話していいかどうか聞いてなかったっていうのもあったしね。
最後の日はいろんな人からお菓子をもらってしまって持って帰るのが大変だったけど、途中で和樹さんと会ったから一緒に歩き、その途中で父にも会ったので、三人で持って帰った。
そして結婚式の日。
「綺麗だよ、紫音」
「和樹さんも素敵でかっこいいよ」
私はシンプルなウエディングドレスだけど、和樹さんは陸自の儀礼服を着ている。私に合わせたのか、全身真っ白だ。
市ヶ谷まで行って、レンタルしてきたらしい。
帽子と、腰にはサーベルが付いていて、すっごくカッコいい。
準備も大変だったし、喧嘩したこともある。一緒に住む家は、うちのマンションが空いていたこともあるし、広いからという理由でそこに引っ越した。
駐屯地にも近いしね。
「無理はすんなよ?」
「しないよ。それに、吐き気もまだないもの」
「わかってるが、やっぱな……」
和樹さんとは、先に籍を入れていた。その時は大丈夫だからと避妊なしで抱き合ったんだけど、どうもそれが
式の一ヶ月前に籍を入れて、つい昨日発覚したばかりだ。
姉も旦那さんの転勤でこっちに引っ越してきた。都内に住んだままでもよかったそうなんだけど、同じ部屋数なのに家賃が全く違うことが決め手になり、旦那さんと話し合ってこっちに越してきたらしい。
「これでほぼ毎日、紫音や蓉子さんに会えるわ」
姉はそう言って喜んでいた。
式は親族だけでやって、披露宴もやって。いろいろ疲れたけど、一生思い出に残る結婚式となった。
――そして。
「紫音、よく頑張った! 双子だぞ!」
「……ありがとう」
「俺もありがとう」
生まれた子は双子だった。とても元気な男の子二人。
いきなり双子は大変そうだけど、そこは近くにいる父や義姉たちに頼ったり聞いたりしながら、頑張って子育てをしようと思う。和樹さん曰く、当面は移動もないって言ってたしね。
和樹さんはどうも子ども好きみたいだから、もっと子どもがほしいって言いそうだけど、そこは話し合ってから、かな。私の仕事に関しても、したくなったらすればいいって言ってくれているし。
まあ、今はそれどころじゃないから、考えてもいないけど。
とりあえず、赤ちゃんの顔も見れたし今は眠い。あくびをしたら「寝てろ。お疲れ様」と和樹さんが言ってくれたので、素直に目を瞑る。
これからもきっと喧嘩したりするだろうけど、それはみんなで乗り越えていけばいいことだ。今は幸せいっぱいです!
私の彼は、空飛ぶカエルに乗っている 饕餮 @glifindole
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます