第三話 雨の待ち人
待ちわびた日曜の朝。
「ちっ」
起き抜けに舌打ちした俺を、品がないと責めないで欲しい。
今日という日をどれだけ楽しみにしていたか。
毎日のように会社のメールを使ってアイツとやりとりをして。
晴れたら山にでも行ってピクニックの予定だったんだ。
それが......。
「バッカヤローーー!!」
恨む。恨むぞ、梅雨!!!!
そりゃあ、雨天の場合はその場でどうするか決めようって言われて、あまり強く意見言えなかった俺も悪いけどさぁ。
朝から降るこたぁねぇだろ?
梅雨だから仕方ない?知るかボケ!!
「あーっ、もーっ、どーすっかなー」
雨天中止と言われたら?
初回だぞ?しつこくして嫌われたらどーするよ!?
「詰んだ......」
メールの感じからして、アイツ距離あんだよなぁ。
踏み込んで、地雷踏み抜きたくはない。
どうしたものかと悩んでいたんだが......。
「げっ!!」
時計をみて仰天!
このままじゃ遅刻しちまう!
考えるのは後!!
待ち合わせ場所に行かなきゃ始まらない!
大急ぎで着替えて出てきたんだけどーー
「来てねぇし!!」
ハイエース飛ばして来て、着いたのは時間きっかり。
待ち合わせ場所の駐車場には、アイツどころか人っ子一人いやしない。
仕方ないから車の外で傘さして待ってみたが、一向に現れない。
待ち人来ずってやつだ。
「何やってんのアイツ?」
彼女は電話を持っていない。
携帯電話はおろか、寮の自室にさえ電話がついていないらしい。
つまり、連絡をとるには寮の受付窓口に電話して取り次いで貰うしかない。
日曜の電話担当は寮生だからして、知り合いに彼女との繋がりがモロバレする危険がある訳で。
「......あー、仕方ねぇか」
背に腹は変えられない。
覚悟を決めて電話帳から寮の番号を呼び出す事にした。
『はい。第3本山寮ですが』
知らん声だ!
天は俺を見捨てなかったらしい。
「すいません、笹宮と申しますが、401号室の樹本 沙織さんをお願いしたいんですが」
少々お待ち下さい、とお決まりの言葉の後、流れる保留音を聞く事しばし。
『お待たせしました。樹本さん、今外出中みたいです』
「そ、そうですか。ありがとうございました」
失礼します、と電話を切り、考える。
この状況が示す答えは多分この3択。
①彼女は電話を拒否した
②彼女は約束を忘れて出かけた
③彼女は今こっちに向かってる
正解はどれだ?
①だったらショックだな。しかし、それなら『御取次出来ません』と返答されるだろう。
次に②。これはちょっと考えにくい。2日前の金曜日。俺は確かに彼女と約束の時間と場所を確認しあっている。たった2日で忘れるってのはいくらなんでも無いだろう。
とすると残りは③?などと考えていた時だった。
「はぁ、はぁ......。ごめん、遅れた」
「お前っ!この雨の中自転車って何考えてんだ!?」
雨の中、傘もささずに自転車で爆走して来たのだろう。
現れた彼女は見るも無惨な濡れネズミだった。
「あは......は。ちょっと、寝坊、しちゃっ......て。待たせちゃ......わる、い、と、思っ......て、いそ、いで......来たん......だけ、ど」
途切れ途切れ、息を切らせながら話す彼女に、とりあえず傘をさし出す。
「アホ!風邪ひいたらどうすんだ!まったく......」
「アホは酷いなぁ。せっかく一生懸命走って来たのにさ」
ナンだよその表情(かお)!
困ったみたいに笑うなよ。
可愛いじゃねぇか!
「ほら、とっとと貸せ。積んでやるから」
顔が熱いのをごまかすように、俺は彼女から自転車を奪い取り、サッと後部座席に積み込んだ。
「何してんだよ、早く乗れ」
助手席のドアを開けて彼女を促す。
「ん、ありがと」
はにかんだし!!
何コイツ、計算なの?素なの?俺、まいるんだけど!
俺の内心の叫びをよそにハイエースの助手席へと乗り込む彼女に続いて、俺も慌てて運転席へ乗り込む。
シートベルトを締めて、いざ発進。
「とりあえずお前、その格好何とかしろ。ずぶ濡れじゃ風邪ひくだろ」
「んー、いいよ。着替えに帰る時間勿体ないじゃない?」
ーーはあ?
お前な、服貼り付いてんぞ。
肌透けてんぞ。ついでにブラもなっ!
「あー......、俺の部屋来いよ。風呂と着替え貸してやるから」
「ホント?じゃあそうしようかな」
「おぅ。じゃあ決まりな。狭い部屋だけど、我慢しろよ?」
冷静な口調とは裏腹に、俺の頭の中は若干パニック気味だ。
ーーおいおい、マジかよ?いきなり部屋に来るって、しかも風呂って、意味わかってんのか?
何しろ相手はまだ19歳。未成年だ。男の部屋に行くって意味もわかっちゃいないかもしれん。
とりあえずだ。何かすると決まった訳じゃない。ここは意識しないようにしとかないとマズイだろう。
冷静さを保つ為、俺は何とか運転に集中しようと試みるのだった。
レインキス @72nanase
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