第二話 再会の雨

 再会したのは、やっぱり雨の朝だった。


 「お?」


 愛車のハイエースを走らせる俺の前に、傘片手に爆走する自転車が目に入った。その主が誰か、後ろ姿からでもばっちりわかる。俺はソッコーでクラクションに手を伸ばした。


 ププッ!


 ふいに響いた音にびっくりして振り向いたのは、やっぱり彼女だった。


 「こら、傘さして何爆走してんだよ」


 「あんたっ!?最悪ー、急いでるのに変なのに会っちゃったよ」


 「変なのって、失礼だなー。せっかく乗せてやろうと思ったのに」


 え、ほんと!?と、何やら打って変って好感触になる彼女。現金なやつ。

でも、不思議と嫌な感じはしない。


 「ほら、貸せよ」


 自転車をかっぱらって、さっさと後ろのスペースに積み込んだ。


 「どうぞ、お嬢さん」


 助手席のドアを開け、エスコートしてみる。


 「あ、ありがと」


 あ、照れてる? 

 意外な反応。ちょっとびっくりだ。


 運転席に乗り込んで、車を発進させた俺は、ちょっとうつむき加減な彼女をちらりと見て声をかけた。


 「お前って、意外と可愛いのな」


 すると彼女は、顔を真っ赤にしてこっちを睨む。


 「な、何言ってんのよ!?ああ、あたしがかか、可愛いだなんて!!」


 動揺丸出し。

 すごい。こんな反応するとは。予想外だ。


 「あはは!ばーか。何動揺してんだよ」


 むしろ動揺してるのは俺だけどな。


 「なっ!?か、からかったのね!!」


 ミラー越しに憤慨する彼女を見て、俺はぷっと吹き出す。


 「悪い悪い、お前、からかいがいあるからつい」


 げらげら笑う俺に、ぷんぷん怒る彼女。ついこの間まで赤の他人だったのに、こんなふうにからかえるなんて。近頃なかった、気安い空気。昔からの知り合いみたいに、楽に話せる。こんなの、初めてだ。


 「悪かったよ。お詫びに今度どっか連れてくから」


 口をついて出た誘いの言葉。ドキリとしたのは、彼女じゃなくて俺。


 「ほんと?絶対だからね!」


 YESの返事。瞬間、やっほう!と思ってる俺がいた。顔には、出てないよな?


 「ほんとだよ。日曜あたり、どうだ?」


 さらりと続ける内側で、跳ねる心臓。


 「ん、日曜?いいよ、別に」


 よっしゃ!

 心の中でガッツポーズ!


 「じゃ、日曜、10時に寮の駐車場でどうだ?」


 「了解。遅れないでよね」


 遅れるわけないだろう。思いながら適当に相槌を打つ。

 雨が降ってて本当に良かったぜ。むしろ雨に感謝したい。グッジョブ雨!

 

 ーーデートだよな?な?


 日曜に会う約束を男女が交わす。すなわちデートだろう?気が早い?何とでも言え。約束は約束だ。

 

 ーー早く来い日曜!いや、でももう少しこのままでいいけど。


 彼女と一緒にいる時間が凄く貴重なものに思える。日曜が待ち遠しくて、でもこのまま近くにいたくて。複雑な気分の俺なのだった。

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