小品 Ⅱ
アクリル
なんでアクリル?、と
――女ふたりで、真っ昼間からどちらもパンイチでさ、わたしたちってひょっとしてレズなの。
アクリルのコップで麦茶をのむ千歳はどこかいかりをまぜて言うのだが、わたしとしてはどうでもいい。だいたい、服を着ることを先にめんどくさがりはじめたのは千歳のほうだ。言っておくべきことはひとつある。
――わたし自身は、別にヘテロセクシャルでもホモセクシャルでもかまいやしないんだけど、千歳をパートナーにえらびたくはないよ。
千歳はむっとして、わたしがバツ二だからか、と言う。それだけをかんがみて言ったのではないのだけど、二回の離婚歴を考慮するなというのもむつかしい話だ。
なんの前ぶれもなく、せみが鳴いてるねえ、と千歳が言う。
どう返しようもなく、せみが鳴いてるよ、とわたしが言う。
コップは柄のないものを買った。千歳がのどを鳴らすごとに、アクリルのむこうにある千歳のかおがはっきりする。とびきりの美人なのだけど、かまってほしがりで、がまんがきかなくて、嫉妬しいで、だから男ににげられる。わたしだって、パートナーとして一生をともにしたいとはおもえない。
――わたしたちの友情って、硝子?、アクリル?、ねえ、キスしてもいい?
飲みさしのコップをテーブルにおいて、千歳は真剣なおももちで言う。ほら、そうやってすぐにひとをためそうとするからきらわれる。
――アクリル。
わたしはそう言って、そしてすぐに、でも、キスは男のひととしたい、と言いそえた。真っ赤なうそ。
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