ご機嫌いかが



ふたつの自販機が並んでいて

宵闇にぼうっと浮かぶ光に触れて

右の自販機に

やたらと体格のいい蜻蛉とんぼが一匹

わたしの飲みたいコーヒーのボタンに

ちょうどよくぴたり

払いのける勇気がなくて

左の自販機で

あての外れたコーヒーを買う

些末な悔しさを振り払うように

プルタブに指をかける


負けたのはわたし

苦味の違うブレンドに

難癖をつけられない

わたしを生きているのはわたし

奮い起こせばよかったと

しがない後悔に甘んじる


ひとつふたつと尋ねてみたい

狙ってそこにいたのか

臆病なわたしはどう見えたか

みっつよっつと問うてみたい

ご機嫌いかが

わたしをどう思いますか


わたしがわたしに答える

そのコーヒーを狙っていました

臆病なわたしは嫌いです

わたしがわたしに向き合う

実のところ機嫌を損ねました

こんなわたしは嫌いです


夏の宵

苦味の違うブレンド

ささいなくだらない出来事で

あなたは

ただの蜻蛉のくせに




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