この作品に何が描かれていて、そして何を楽しむかというのは、幸子と紗世、ふたりの距離感に他ならないと、そう思うわけですが、それだけじゃレビューになんないということで。
この作品を構成するうえで、おそらくもっとも重要であるはずの要素が、直接的に書かれていません。ふたりの距離感、関係性を通してのみ、間接的にのみ、それは示されています。
重要であり、秘めるように示されていると思うもの、それは“時間”です。“これまでふたりが過ごしてきた日々”です。
ふたりの距離感というのは、これまで過ごした日々の結実であり、“証明”であると考えます。確かな日々を重ねてきたゆえにこそ、今の関係性があるのだと。巧みに描かれたふたりの様子を通してこれまでの日々を思えばこそ、読者はそれを信じられますし、それはまた、これからの日々についても同様なのです。過去、未来、どちらも“時間”です。
その点、作者は、関係性という一点だけで、過去も未来も描いてしまったとも言えるでしょう。文字数のことも合わせて考えれば、求める結末に対して、ほとんど最良の手法であったと思いますし、しっかりした発想力と技量を感じます。
この作品を読んで、心が温かくなったならば、それはきっと、ふたりの過去と未来を信じたからです。