side:魔法少女透明硝子

【第四話】VSみみぴょん


 魔法少女ノノリアにボクのステッキを託して敵へと向かう。澄明無色は日頃少しずつ魔力を注入した一品だけれどボク以外の人にどれだけ効果を発揮できるかは未知数だ。


 ステッキの魔力が枯渇する前にみみぴょんとの決着を付けなければ――率直に言って一人を庇いながら戦い切る自信はない。

 翔けながら短期決戦の覚悟を決める。横目でノノリアを確認するとかなり端、柱の裏あたりに気配を感じる。あの場所には近づけないようにしないと。


 流れていく空気を感じる……こんなに全力で走ったのは何時ぶりだったかナ……。



 敵の元へと辿り着いた。

 既に必死の攻防戦をボクの目の前で繰り広げていた。

 みみぴょんは相変わらずの存在感でそこに居た。見たところみみぴょんに外傷は無い。動きが鈍った様子もない――体力もまだまだ残っているのだろう。



「もぉ〜っ!なんできかないのぉ〜!」


 そうみぃが剣と大差ないまち針で次々とランダムに切りつける。


 大きく振りかぶり切る。


 助走をつけ、刺し……。


 まち針を振るう度に鈍い音が鳴るがみみぴょんにダメージを与えられている様子はない。


 魔法少女そうみぃ〜♡司るものは、。あらゆる物に穴を開けることを得意としているんだ。

 彼女は魔法少女の中でも攻撃力・攻撃性、共に高い方な筈なんだけど……。みみぴょんって今までこんな強くなることあったかなぁ……。


 ……まぁ、ぬいぐるみ相手に『まち針』じゃ分が悪そうだネ。刺しても刺しても全然効きそうな気しないヨ。


硝子ガラス、応援助かる。見ての通りそうみぃだけじゃ、歯が立たない……。」


 そのデルタの言い草にそうみぃは黙ってはいない。


「ちょっと!! アンタどこ行ってたのよぉ!? ずーーっと、私一人でこのデカブツの相手してたんだけど――

 きゃあっ!?」


 お喋りしながら規格外みみぴょんをまち針で受け流していたそうみぃの頬に攻撃がカスったらしい。

 何かの片手間で対峙したりするからいけないんだゾ、ってことで。


「……ごめん。私、上から敵のデータ取ってた。」


 表情をピクリともせずに淡々と口にするデルタ。本心で詫びているのかよく分からない……けど、元々そういう子だしなぁ。

 そろそろ、そうみぃ一人では限界そうなのでボクは助太刀すけだちをしながら問う。


「それで? 情報を教えてなのサ。」


「言われなくても、情報開示ディーボルガン。」

 彼女の瞳から空気中に敵データが映し出される。大小様々なウィンドウに数値やら特徴やらがぎっしりと書かれている。


「識別番号:E-2568003。個体名称:デカみみぴょん改 三号機。現段階の推定戦闘能力値パラメーター:過去の平均データと参照して。得意属性:に強い。不得意属性:火属性魔法。特技アビリティ:現段階で。みみぴょんの特性から類推するに使用特技アビリティ無し……。」


 一息で重要なことだけを出来るだけ短じかく伝えてくれる。そんなデルタの気遣いには全魔法少女がいつも助けられている。

 ボクは敵情報を頭に叩き込みながらみみぴょんと対峙。


「……やっぱり能力値パラメーターが桁違い、カ。厄介だネ。」


 相手が殴打を繰り出してくるのが視界に入る。


 頭を僅かに右に動かす。

 回避。


 すぐさま的に向かって足を蹴り上げてなんとか相殺。


 視界に入る自分の短く白い髪の毛さえうっとおしく感じる。

 そうみぃは敵の後ろに回って攻撃をしてくれている。相変わらずそんなに効いてないみたいだけれど。


「ただ……みみぴょん全般に関する留意点として。敵対する魔法少女の、というのがある。この三人の中で相性含めて最高戦力は、硝子ガラス……。」


「まぁ……そうねぇ〜。」


 まち針が折れてしまったらしく、敵から離れたところで新しいのと交換している。彼女の武器は消耗品なので定期的なメンテナンスが必要なんだとか。


「でもさ、ボクを最高戦力として認識しているにしては強すぎなのサ。そうだろう?」


 今度はみみぴょんが大ジャンプ。


 デルタが手を引いてくれたおかげで衝撃波をくらわずに済んだ。


 そうみぃはタイミングを合わせて軽やかな弧を描いて飛躍。

 みんな熟練の魔法少女なだけあって連携プレイや戦闘技術には優れているのが唯一の救いだ。


「そう……。だから、おそらく? みみぴょんが、 として認識しているのは――」

「魔法少女ノノリア、だネ。」


 チラリ、とノノリアの隠れている方を一目見る。彼女は相変わらず柱の影にいるのが自分の魔力ごしに分かる。


「え、? でもさぁ〜、ノノリアちゃんは変身できてないよぉ?」


 敵の周りを走り抜けながら武器を振るうそうみぃ。新品のまち針が太陽光をキラリと反射している。


「これは、私の推測にしか過ぎないけれど――」


 彼女の頭には情報データがぎっしり詰まっている。勿論過去の模擬戦、その中でもデビュー戦の情報データだって一つとして欠けることなくある筈なんだ。

 そんなデルタが手を弄りながら自信なさげにしているということは……相当の異常事態イレギュラーってこと。


 身体中の汗が吹き出してくる。暑いからではなく、嫌な予感しかしないからサ。ボクだってこんな事になるとは思っていなかった。


 意を決したデルタが言葉の先を続ける。


「――ノノリア、は今にある。と、思うの。こんなの前例がないけど……でも、それしか無い。それで、みみぴょんはそれを……その、としか認識出来ないんじゃない、かな……。っ!」


 唐突に敵がノノリアの方へ歩き出した。


 いち早くそれを察知したのはデルタだった。


 方向を急転換。

 デルタがみみぴょんの眼下を飛ぶ。


 みみぴょんの気を引きつけることには成功した、が。


「……っ!?」


 背後から迫ってくる腕に反応するのがほんの僅か遅れる。


「デルター!」


 ダメだ。ボクは飛べないから空中には助けに行けないっ!!

 そうみぃも飛べる魔法少女じゃない。デルタに回避させる術がない!


 無理して移動方向を変えた直後に猛スピードで迫る打撃をかわすことは叶わず、デルタは床に叩きつけられた。


 その衝撃でデルタの身体のパーツが一部破損し、バラバラになる。


「そうみぃがアイツの相手暫くするから! 硝子ガラスはデルタのところにっ!」

「分かったのサ!」


 すぐさまデルタの所へと向かう。

 あの頑丈なパーツが破損するということで、みみぴょんは規格外の攻撃力なのだということを改めて思い知らされる。たった三人で倒せるのか……という不安が浮かんだが無理やり頭を振って追い出す。


 ダメだ、ダメだダメだっ!!ボクが弱気になっちゃダメだ。やるしかないんだからサ……。落ち着け、落ち着くんだボク。


「デルタっ! 無事なのサ!?」

「だ……い、じょうぶ。私の身体パーツは後で交換・修理。でき、るから……。これくらいなら、動け、るよ。」


 ところどころ皮膚部品スキンパーツが剥がれ落ちてしまったようで複雑な配線が剥き出しになってしまっている。

 ボクが手を貸すと直ぐに立ち上がった。本人の主張する通り、動きに支障は無いみたい。良かったのサ。


「それで……さっき言ってた事だけど、どういう意味なのサ?」

「その……私もうまく説明出来ないんだけど、んじゃないかな、って……。えと、みみぴょんが規格外に強化されるくらいに。」


 でも、根拠も情報データも何も無いの……と消え入りそうな声で詫びる。これも今まででは考えられなかったことだ。


「つまり、デルタが言いたいのは……。ノノリアは凄く強い魔法少女だけど、今は変身に失敗して本領を発揮できていない。だけど、みみぴょんは強化されちゃった……ってこと?」


「そういうこと。ごめんね、うまく伝えられなくて。」


 みみぴょんはデビュー戦でよく使用されるモンスターだ。何故ならば新人魔法少女の戦力と同レベルに調整しやすいから。

 それに加えて魔法少女は昔からいる子より新しい子の方が能力自体が高いことが多い。ファンは更に強く、更に可愛い魔法少女を求めているからね需要に合わせて委員会の方も試行錯誤している。


 だとしても、サ。もしもデルタの言う通りだと仮定すると……ボクとノノリアの戦力差、大き過ぎないか……?

 ちゃんと変身して戦えばあのみみぴょんを余裕で倒せるってことだろう? ぶっ壊れ性能にも程がある。……委員会は何を考えているんだ。間違いなくパワーバランスが崩壊するゾ!?


「そう言えば、何時も腰に下げてるニート。何処やったの?」

「……いくらステッキの名前に無色が入っているからってニートはやめてくれヨ。そっちの無職じゃないヨ。」

「ニート、って呼び名気に入ってる。……で? 何処やったの?」

「……。ノノリアに預けたのサ」


 そっか、と納得したように頷き。


兵器模造ワッフェン・イミタッション――兵器Noナンバー:568051-173。構成開始コンフィグラッチオン。」


 空中に手をかざし下から上へとゆっくり動かしていく。それに伴って情報データの集合体――光り輝く『0』と『1』――が集まって武器へと姿を変えていく。

 何時もこれを見ると思うけど、魔法って見た目の綺麗さも大事だよね。……ボクの透明は見えっこないけどサ。むしろ見えなくする魔法だし……。


「……出来た。どうぞ。」


 完成したものは身の丈ほどある杖だった。一番上に赤い水晶の付いている。

 片手で受け取ったら思ったよりもずっしりと重くて落としかけた。折角作ってもらったのに壊すところだった。危ない。


「毎回言ってるけど、それ、あくまで情報データから作っただから脆い。攻撃をそれで受けたり、魔法を使い過ぎたり、しないように。武器、無いよりはましだと思う。」

「分かった。ありがとうなのサ!」


 実はきゃーっ! というそうみぃの悲鳴が先程から聞こえている。


 急がなくては! ボクは杖を受け取って即座に戦闘に戻る。

 デルタも空を翔ける。


「そうみぃ! 下がるのサ!」


 そうみぃが敵から充分に距離をとったのを確認。


 ボクはそのまま全速力、至近距離まで接近。

 みみぴょんは大きいから動きがそこまで速くない。


 確実に攻撃が当たる今が好機チャンスっ!


 杖を一振り。

 見くびるなよ、基本的な魔法攻撃くらいならボクにも扱えるんだゾっ!


「いけぇぇーーーーっ!!」


 杖の先から炎が迸る。

 大規模な火属性魔法じゃないけれど、ぬいぐるみを燃やすには充分なのサ!


 炎はみみぴょんに着火。

 勢い良く燃え始める。


「キィヤァァァァァァッ!!!」


 みみぴょんはマスコットキャラクターらしからぬ悲鳴をあげてもがき苦しんでいる。


 ヤッタッ!確実に効いてるのサ!


「そうみぃだってっ、見せ場が欲しいぃ〜っ!!」


 横にはけていたそうみぃがボクの隣で軽やかに床を蹴る。

 そのまま空高く上昇。


 敵の真上に到達すると。


「大きな風穴、あけてやんよぉっ!!」


 まち針を魔力を込めながら構える。

 そして、一直線を描くように突き出す。


穴ある所に私は通るレッシャーギフト・イフギーンッ!」


 掛け声と同時にみみぴょんに巨大ハート型の穴が生まれる。


 そうみぃは刺す時の勢いを利用してその穴を通って戻ってきた。


「へへん! そうみぃもやれば出来るんだからぁっ!」


 ボク達に見てた見てた!? と聞いてくるので、ハイハイと軽く流す。


「キィエヤァァァァ!! ギュフピィィィィィーッ!!」


 穴を開けたことにより炎は穴の内部まで燃え広がっていく。

 これはもう、倒せたも同然ではないだろうか。


「二人とも、凄い。GJグッジョブ


 周辺を飛んで構えていたデルタも帰って来た。

 後は火で燃え尽きるまで待つだけだ。



 ――刹那。


「ギュイエァァ!」


 緑色のエフェクトがみみぴょんを包んみ、炎と穴が消えた。


 何が起こったのか分からないボクとそうみぃは唖然とする。

 ただ一人、状況を理解したデルタは震えながら声を絞り出した。


「ほう、報告……。特技アビリティを感知……。みみぴょん、特技アビリティ名:完全回復術式コンプリート・リカバリーを使用……。」


「……え?」


「そ、その特技アビリティ名の通り、ことを。お知らせしま、す……。」


 ……嘘だゾ。今までみみぴょんがそんなこと、特技アビリティを使うなんてこと、無かったじゃん。


 二人とも渾身をこめた攻撃を……。


 何このみみぴょん。どれだけ強いの? 魔法少女ノノリアってそんなに強い魔法少女になる予定だったの? 何それ、何なのサ。どういうことなのサっ!!


 誰か……誰か説明してよっ!!


「こんなの、勝てっこないのサァ……」


 みみぴょんとの圧倒的な戦力差に三人ともやる気を完全に消失してしまった。







 その時。


「……なんじ、不幸をもたらす者……」


 ヒールの音を響かせながら誰かがこちらに向かってくる。

 この、声。台詞はっ!?

 衝動的に振り向くとそこには黒い魔法少女――魔法少女ターナー――がいた。


 緩くウェーブのかかった青紫から水色へのグラデーションの髪色、魔法少女には珍しい黒い服装……間違いない。魔法少女ターナーだ。


 魔法少女ターナーの登場により、会場はブーイングに包まれる。


「その存在を抹消し、安寧を取り戻せ……」


 非難する声など聞こえないかのように着実にみみぴょんに近づいていく。


「時は来た。今こそ……相応ふさわしい。」


 しかし、暫くするとブーイングも収まった。何故ならば会場にいる全員――ボク達、魔法少女も含めて――がターナーに対して恐怖を感じたからだ。

 何か、触れてはいけないモノに触れたような感覚。


 みみぴょんですら魔法少女ターナーの得体の知れぬ威圧感に怯えている。


 誰一人動けずにいる中、彼女だけが動いていた。


「消えなさい……――。」


 躊躇ちゅうちょすることなくみみぴょんに触れて。


「――跡形もなく。」


 そして――――





 ――


 それは一瞬の出来事だった。瞬きしたら居なかった、それくらい。


 彼女が魔法少女ファンに非難される理由はこれだ。


 正体もよく分からない。公式サイトにて司るもの、その他の情報が非公開。模擬戦に呼ばれても来ない。来ても途中からいきなり参戦。


 そして来ると必ず――



 先程、起こった通り


 それ故に魔法少女ファンからは『チート魔法少女』として忌み、嫌われている。


「それじゃ、私は……仕事を終えたから。」


 後片付けはよろしく、とぶっきらぼうに言い残して歩き去った。


「何、あの子ぉ……。今更来てぇ……。感じ悪い」


 確かにボクも魔法少女ターナーは苦手だ。


 でも、今回ばかりは『助けられた』という事実がボクに絡みついて離れなかった。

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人工魔法少女の3月×3日 愛色まりん @aiiro_marine

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