【第三話】模擬戦:その2
音が鳴ると同時に敵のみみぴょんがのっそりと動き出す。見たところ動きは襲いけれど……結構パワーがあるのか歩く度に僅かに振動が足裏から伝わってきます。
「じゃ、ノノリアちゃん。私達は敵を引き付けてくるからねぇ〜っ!」
大きくこちらに手を振りながらみみぴょんへと向かっていく。
デルタはののの横を飛び去りながらポツリと。
「ゆっくり。変身しても。大丈夫だから。」
先輩魔法少女の二人は余裕そうだなぁ……。なんだか模擬戦を楽しんでいるような気がする。
ふっ、とモンスターの方を見やるともう既に交戦していた。みみぴょんがこっちに来ないようにしつつ、重そうな一撃を魔法少女の俊敏さをもって一つ一つ丁寧にかわしていく――。
これだけでも充分凄いのだけれど、普段の試合ではもっとバンバン魔法を発動する。魔法のエフェクトが重なって輝いて、何が何だか分からなくなるくらい。新米のののに見せ場を作るためかな……何時もよりかなり手加減をしているように見える。
それなら、もうののも行かなくちゃっ!!
吸って……はいて……、深呼吸。それから気合いを入れるために両頬をパンパンっと叩く。ほんの少し残っていた緊張もこれでおさらば!!
「……よしっ!」
今、ののにあるのは高揚感だけ。大丈夫、きっと上手くやれる。
ののは体の前で両手を組んで変身の体制に入る。
委員長さんの説明によれば魔法少女の魔法の基本ベースは魔法少女自身の持っているイメージらしい。つまり全ての魔法は想像さえ出来れば生み出せる。理論上は。
でもね、現実はそう上手くはいかない。魔法少女によって、イメージするものによって具体性が異なるから。例えば、ただの女子高校生ののが戦闘機を思い出しても細かくは想像出来ない。それはののが戦闘機に詳しくないから。
なんか、魔力を魔法にする時に色々な理由――確かこれも説明してくれたんだけどののには難し過ぎて理解出来なかった――でイメージがあやふやな方が無駄に魔力を消耗するらしいの。
で、これを解決するのが魔法少女の司るもの。委員会は独自解析により、魔法少女の得意分野を診断してくれている。
そういう訳で、魔法少女は想像するのが得意な司るものについてなら最大限の能力を引き出せるんだって!
長々と語っちゃったけど、ののが言いたかったのは変身シーンもイメージの詳細さえあれば実現可能ってこと!!
変身の体制に入り暫くすると、なんか言い表し難いエネルギーのようなものを周囲に感じた。どこか安心感のあるもので包まれている……って感じ。
そうっと目を開けてみる。下から軽い風が吹いているかのようにスカートの裾やののの髪の毛が少しばかり重力に逆らってフワフワとしている。勿論、こんなことは普通ではありえない。
「……これが、魔法なんだ……っ!」
感動とやっと魔法の力を実感したのとで思わず声が漏れてしまうのを抑えられない。
初めての感覚が面白い! 手を広げてみたりすると手のふちにぼんやりとオーラのようなものが見える。オーラの色が白いのはののの衣装が白いからかな?
周囲に魔力が満ちてきたのを実感出来たので次の段階に移らなきゃ……。
ええっと。次は……強く、非常に強く想像する。
今まで見てきた魔法少女モノアニメを参考に変身シーンをイメージする。
最初は白いシンプルなAラインワンピースを着ているのの。お次は……そのワンピースにどんどん装飾を足していく。リボンだとか、ベールにレースだとか……とにかく沢山!!周りの魔力を集めて……そのシルエットを光らせて……ぱっ! という感じで!
そしたら次は髪の毛!
そのままでも結構長いけど、もっと長く伸ばす! 髪の色は毛先に向かって元々のミルクティー色からピンクへのグラデーション。
それからそれから……。目は開けたらミルクティー色だったのがピンクになってる感じ!
最後はやっぱり武器!どんな武器かは変身してからのお楽しみね!!
イメージの準備はバッチリ!これで変身出来るはず!!
イメージを終えた時点で白いワンピース姿になっていたののは心を踊らせながら白い魔力が集まり、光り出すのを見ていると――。
手袋になるはずだった魔力が次の瞬間、輝きを失って空気中に散ってしまった。
「……。あ、れ……??」
おかしいな。何か間違えたのかな……?
想像力が足りなかった? とか……?
もう一回、さっきイメージしたのよりも事細かく装飾がついていく様子を想像したけれど――。
結果は同じ。またパンっ! と音を立てて散り散りになってしまった。
そんなののの様子を見て観客席がザワザワし始める。
やっぱりこの状況はヤバいんだ……。どうしよう……? そんな風に更に焦りが募っていくばかり。
とりあえず、装飾だけがダメかもしれないから髪型のことを考えるようにした。
長く、長く……そして色づいていく様だけを頭に叩き込む。
すると徐々に髪が伸び始めピンク色が見え始めたので安堵とするも――。
直ぐに止まってしまいその上、ピンク色もまばらについてしまった。フワフワの髪の毛をイメージしていたのだがそれも上手くいかず、中途半端に部分的に丸まっていたためボサボサしている印象を受ける。
武器だけでも出せれば戦えるのでは! と思ったがここまで失敗が続いているのに成功する訳がなかった。
全てを試して魔力を使い切ってしまったのか……。気づいたらオーラも消えていた。もう何も出来ないの……?
なんで、なんで……?? どうして? 何がダメなの……?できるって、可能だって言ってたのに!!
泣きそうになるのをすんでのところでグッとこらえて周りを見渡した。
お客さんのざわめきが更に大きくなっている。当然の反応だろうなぁ……どう見ても変身、出来てないんだもん……。
視線が怖い。
沢山の人の、会場にいる全員の軽蔑の眼差しをののが受けている気がする。
自分がとても情けない。
あんなに意気込んで……「変身シーン見せます!」とか言ってたのに出来ないんだもん、ね。
出来上がったのは白いワンピースに髪型は不格好。武器も何も無い魔法少女ノノリア。
こんな筈じゃ……こんな筈じゃなかったの。衣装だって凄く真面目に考えた。憧れを全て詰め込んだこだわりの衣装を、着れるはずで――。
「ノノリアっ!!前っ!」
どこからが緊迫したデルタの声が聞こえて急いで目の前を見ると、みみぴょんがいた。
「……っ!?」
その大きさとマスコットキャラクターらしからぬ不気味さとで息を呑む。
みみぴょんはのの――変身しきれてない魔法少女ノノリア――を敵として認識しているようで腕を上に振り上げた。
柔らかそうにも見えるが今のののに当たれば必ず致命傷になるだろう。
逃げようとも思ったが足が恐怖ですくんで言うことを聞いてくれない。逃げれない。
そうみぃちゃんもデルタも必死に走り――デルタは飛んで――いるが大分離れたところにいる。魔法少女の身体能力でも端から端までは流石に時間がかかるだろうなぁ……。
もうダメだ。ののは魔法少女として何もかも中途半端なまま終わるんだ――
「キミィ、危ないのサァっ!」
――刹那、何と認識する間も無く手を凄い速さで引っ張られる。そのおかげで攻撃からはギリギリ逃れられた。
会場は新しい魔法少女の登場で歓喜に湧いているが、そんな悠長な事態ではないらしい。
……本当に危ないところで、みみぴょんの腕が私の足の数センチ先にあった。みみぴょんの殴りが繰り出された床には大きなクレーターが出来ていた。
「……下がってて。コヤツ、ボクの勘が正しければ何時もより桁違いに強いのサ……! 今、透明にしてあげるから安全な所へ行くのサ!!」
助けてくれたのは
視界がぼやけてそれ以上詳しくは分からない……安心感で涙がボロボロ、止まらないよ……。
すると、敵から素早く距離を取りつつののを誘導した。
「二人がみみぴょんを足止めしている間にコレを……。」
腰のポシェットから取り出したのはあちこちにクリスタルが散りばめられた小さなステッキだった。
「これ、ボクの魔力が詰まってるステッキ。これを持ってれば暫くは透明状態が持つと思うから……。」
そう言いながらののの手にしっかりと握らせ、手を包み込んだ。
「見えなくなぁれ。」
どこか優しさを感じる声色で呟いた瞬間、ののは透明になった。
敵が強いこと、ののは力になれないことから強い不安を感じます。せめて何か魔法がつかえたらよかったのに……。
「そんな顔しなくてもいいのサァ〜。透明にしたものはボクには見えてるしぃ〜。」
にへら、といつもの調子で笑って。
「実はボクは魔法少女一、足が速いのサ。」
だから、逃げて?と耳元に囁いた声が聞こえた頃には。
ののから離れてみみぴょんの元へと応援に向かう魔法少女
そしてましかののはその場から、現実からも逃げ出すように走り出した。
ステッキを握りしめて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます