【第二話】模擬戦:その1


 そんなこんなで結局、誰かが鬼ごっこを止めてくれるはずもなく……。


 開始十分前に見かねた係員さんが恐る恐る「あの、そろそろ始まりますけど……。」と声をかけるまで続いた。

 係員さんの言うことを聞くならの言うことも聞いて欲しかったなー……。


「ぜぇぜぇ……。もうすぐだってよ、キミ。準備は、大丈夫かい?」

「あ、うん。大丈夫です。」


 ののには息を切らして肩を上下させている硝子ガラスちゃんの方が大丈夫じゃ無さそうに見えるけど……。


「……硝子ガラスちゃんこそ疲れてたりしない?」

「ボクは、へーきなの……サ。体力もある、しネ……。」


 膝に手をつきながら、途切れ途切れで返事を返す。絶対大丈夫じゃない。


 一方、追いかけられていた方はと言うと――優雅にソファーでくつろいでいた。硝子ガラスちゃんと違って呼吸の乱れ一つすら見られないのは二人で協力して逃げていたから。

 ちょっと経ってからの視線の先を追うように二人を見て、溜息を漏らしながらボヤく硝子ガラスちゃん。


「……あの二人は呑気すぎるのサ。こういう時だけ連携するし……。」

「そう言えば硝子ガラスちゃん、なんで魔法使わなかったの?」

「え?」

「二人とも魔法とか使ってたのに硝子ガラスちゃん使ってなさそうだったし……。それに『透明』になればすぐに追いつけたんじゃ……。」


 右手のひらを左手でぽんっ、と叩いてののを指さした。


「それなのサ!!!」

「あぁ〜、ノノリアちゃん言っちゃったのぉ?」


 あちゃまー、とおデコを手で抑えながらそうみぃちゃん。


「皆。気づいてて言わなかった。勿論、敢えて。」


 普段は無表情なデルタがほんの少しだけ残念そうにしている……気がする。ののはとても嫌な予感がします。

 その言葉を聞くやいなや、スグに硝子ガラスちゃんは立ち上がり……。


「……。キミ達n――」

「魔法少女そうみぃ〜♡さーん。魔法少女デルタさんに魔法少女ノノリアさん。そろそろ出番でーす! 移動お願いします。」

「「「はーい」」」


 硝子ガラスちゃんはやむを得ないと思ったのかお説教をするのは諦めた様子。


 空気の読める係員さんによって第二次魔法少女ガチ鬼ごっこは免れたみたい……。良かった……。


「じゃあ、今から移動しますので付いてきてください。」


 係員さんの誘導に従ってステージ裏?舞台裏?を歩いていく。何に使うのか検討もつかないギミックがあちこちに……凄いなぁ。

 そう言えばさっきまで自分で書いた人の字でお腹いっぱいになるくらい緊張してたけど、だいぶ和らいだみたい。


「ねぇねぇー。ノノリアちゃんはぁ、それが魔法少女衣装?」


 親しげに腕をツンツンしながらののに声をかける。


「あ、いえ。のn……私は変身シーンを見せる魔法少女なので……。」

「そうだよ、そうみぃ。私達、ノノリアちゃんが。変身している間守るのが今日のお仕事……。」


 デルタは無表情で無感情っぽく見えるけど会話に入ってくるところを考えると表に現れにくいだけなのかな。


「そっかぁ〜。緊張すると思うけど、思いっきりやっちゃっていいからねぇ! ノノリアちゃんの変身、そうみぃ楽しみ!」

「ありがとうございます。」


 慣れない先輩魔法少女との会話に戸惑ったけど、そつなく返せた……と思いたい。

 そんなこんなで魔法少女と会話をしていると会場への出入口が見えた。外がいい天気だからか光が差し込んでいて眩しい……。


「さて、私達の出番だね……。行こう。」


 頼もしい先輩魔法少女の後を追いながら、光の先へと足を踏み出した。


 入口をくぐり抜けると目に入るのは大勢のお客さん。ぐるりと反対側を見渡してもお客さんで席が埋まっている。

 そんな大勢の魔法少女ファンがのの達が出てきたのを認識したその瞬間、会場全体を響かせるような大歓声で迎えられる。ほぼ同時にスピーカーから陽気な声が大音量で聞こえてくる。


『レディース、エーンドジェントルマン! 本日は魔法少女保護委員会が主催する魔法少女模擬戦――魔法少女ノノリアデビュー戦――にお越しくださり誠にありがとうございまーす!』


 どうやら司会席から放送しているようだ。人気芸人と美人アナウンサーが座っている……司会にもお金かけてるんだなぁ。


『それでは皆さんお待ちかね! 本日参戦の魔法少女をご紹介しまーす!』


 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! とまた熱い歓声が上がる。


『最初は〜? 可愛いだけと思ったら大間違い! ギャップで皆さまをそうみぃ〜♡ワールドへと誘う実力派魔法少女! 一度魅力に触れたら癖になること間違いなし!魔法少女そうみぃ〜♡!!』


 腰に刺している魔法少女そうみぃ〜♡の武器であるまち針を空高くあげ手を振りながら観客の声援に答える姿にカリスマ性を感じる! ののも見習わなきゃ!

 そうみぃちゃんは中毒性が高くて、熱狂的ファンが多い。いつも魔法少女人気ランキング上位に君臨しているのだ。


『お次は〜? 一見、とても小さくて可愛い女の子! だけどその頭に秘めたる頭脳の知識は無限大!!貴方をいつもあっと言わせるデータ世界のプリンセスに君臨するは……魔法少女Δデルター!!』


 自分の紹介が終わるとデルタは音もなくスムーズに真上へと上昇し、お客さん全員に見える高さで静かに恭しくお辞儀をした。

 デルタはあんまり表に出てこない魔法少女なのであまり知られていないけれど魔法少女マニアなら必ず一目置いている子だ。勿論、ののもその一人!


『最後は今回のメインディッシュ! 約十年ぶりの超、新生魔法少女!な、な、な、なんと!? 変身シーンを見せてくれるとか!? 果たしてどんな活躍を見せてくれるのか、期待しよう魔法少女ノノリア〜っ!!』


 会場のあちこちから魔法少女ノノリアへのエールが送られてくる。

 まだ変身していないののは派手な演出をすることが出来ないのがもどかしい……。それでも応援してくれる気持ちに答えたくて一生懸命お客さんに手を振った。


『さーて、魔法少女の紹介が終わったところでお次に紹介するのは……こちら!!』


 小太鼓のジャカジャカジャカジャカ……ジャン!という音に合わせてスポットライトが照らす先には――私たちの対戦相手がいた。


『今回の模擬戦の対戦相手はー! 魔法少女保護委員会のマスコットキャラクターみみぴょんを模したぬいぐるみ風モンスターだー!!』


 私たちの何倍も大きいそれは可愛らしい筈なのに凄い威圧感を与えてくる。今はまだ開戦してないのでただ座って動かない。

 こうして対面すると怖い感じもするが、むしろののはワクワクしています!!


『それでは皆さん、準備はよろしいですかー? それでは魔法少女模擬戦ただ今スタァァァァァァァーートっ!!』


 豪快なコングの音と共にのデビュー戦が始まりました!!

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