第二章

side:ましかのの

【第一話】魔法少女はマイペース


 エー。本日ハ、八月ノ三日。皆様ノ御来場、誠ニ感謝シマス。オ陰様デ満員御礼。オ日柄モヨク、晴天ナリ――



「キミー!! こっちの世界に戻ってくるのサァ〜っ!」


 耳元で叫ばれてハッ、と正気(?)を戻すと魔法少女透明硝子トランスペアレンが私の肩を掴み全力で揺さぶっているところだった。回転が鈍ったの頭で必死に何をしていたのか思い出そうとしたけどなかなか思い出せない……。

ナンダッケ。


「あ、えっと……??」

「あっ! 気づいた!?良かったのサ〜。キミ、満席の会場を一目見ただけで心ここに在らずになってたのサ。おかしな日本語話し出すしサ……。」


 なんだか良く分かんないけど硝子ガラスちゃんが背中を優しくさすってくれてる。

 一方、まだまだぼんやりとしている私はただ言われたことを繰り返した。


「会場……、が。満席……?」


 そんなの様子を見て長ーく深ーい溜息をつき、呆れる硝子ガラスちゃん。


「まだ寝ぼけてるのかい、キミ。これからデビュー戦だゾ? しっかりしてくれなきゃ困るよぉ~。」

「はっ!!」


 その言葉によって本当の意味で正気に戻ったと同時にとてつもない緊張感に襲われた。

 幸か不幸か窓から見える客席は全て埋まっている……。みんながみんな、魔法少女デビューするのの目当てのお客さんという訳では無いだろうけど。今日出場する魔法少女はのの――魔法少女ノノリア――を含めて計四人いる訳だし。


 それでもさ、緊張はするわけじゃん? 先輩魔法少女と一緒に戦う訳だから……。

 さっきから手に書いては飲んでる人の字でそろそろお腹いっぱいになりそうだよ。……やっぱりもう一回くらい飲んどこ……、ごっくん。


「……。が、硝子ガラスちゃんも一緒に出てくれたりしないかなぁ〜?」


 期待を込めてチラリ、と横目で見る。


「今までメディア露出の無いボクが行っても今更って感じだし〜。担当として見守ってるヨ〜。」


 右手でグッドポーズをしながら爽やかにかわされてしまった。

 ……デスヨネ。知ってた。

 硝子ガラスちゃんは応援する気満々らしく何処からだしたのかも分からないマラカスを振っている。

 何でマラカスなんだろうって思ったけれど、あえて突っ込まないでおこうかな。


「そんなことより、先輩達に挨拶した方がいいのサァ〜。多分どこかにいるから。多分。」


 多分、どこかに居るってあやふや過ぎる……。


「……何処にいるか分かったりしないんですか? 控え室とか……。」

「控え室はあるけど、魔法少女はマイペースだからねぇ。絶対居ないのサ!」


 ドヤ顔で言われても困る。会場に不慣れなののにどうやって探せと……。

 途方に暮れていると硝子ガラスちゃんが何か思い出したらように付け足す。


「あ、魔法少女そうみぃ〜♡なら居るかもしれないね。彼女、身支度に時間かけるから……。デルタとターナーは今日見かけてないのサ。」


 眉をひそめて難しそうな顔をしながらこっちを向いた。


「……魔法少女ターナーに至っては来るのかすら危ういのサ。」


 ……魔法少女は思ったより好き勝手に行動するものらしい。のの、上手くやっていけるでしょうか……。



 ―――――――――――――――――


 時は経ちました。そろそろ開始一時間前……。


 結局、待合室に行ったり控え室に覗きに行ったりしたものの誰一人出会え無かったよ……。魔法少女ってどうなってるの……。


「ま、まぁ。そろそろ流石に始まる前だし? スタンバイしてるのかもしれないのサ!!」


 心なしか硝子ガラスちゃんの額には薄らと汗が滲んでいるように見える。冷や汗、だろうか。

 誰もこんなに見つからないなんて思わないよね。ののも思わなかったよ。


 急いで待機スペースに移動すると――



「皆のハートにソーイングっ♡ そうみぃでーす! お初です〜。魔法少女ノノリアちゃん。今日はぁ、よろしくお願いしま〜すっ!」


 ……お馴染みのそうみぃポーズ――手でハートを作りながらクルクルと回ったりする形容し難い一連の動き――をとりながら、魔法少女そうみぃ〜♡ちゃんが盛大に迎えてくれた。

 時間がかなりかかったけれど初めて本人に会えた!ののは感動します!!


「……やっと、いたのサ。」


 疲労感を漂わせ、若干頬を引き攣らせながら硝子ガラスちゃん。


「え〜? そうみぃ、ずーーっとここに居てノノリアちゃんのこと待ってたんだよぉ?」


 手を顎に当てながらこてん、と首を傾ける。これは……あざとい、そうみぃちゃんだ! 通称あざみぃ!!

 凄い! 動きの全てがあざとさを醸し出している!!


「……。ボク達が探した時間は一体何だったのサ。」

「私も。居た。待ってた。よ。」


 そうみぃちゃんのインパクトが強すぎて気が付かなかったけれど、ソファーにちんまりとデルタがいた。

 テレビで見ていた通り無表情で声に抑揚がない。ロボットを模したデザインになっており、球体関節になっているのが可愛い。思わず撫で撫でしたくなる小ささ。


「ターナーは。来てないけど。私とそうみぃはずっと。ここに居た。」


 デルタのその一言でトドメを刺されたのか、硝子ガラスちゃんがガックリと膝から崩れ落ちて床に手をつく。


「なんでサ…………。」


 唯ならぬ気配を察知し、硝子ガラスちゃんから離れる三人。


「……なんで、何でいつもいつも試合ギリギリに待機場所に来るような子達が。今日に限ってここに揃っているのサァ〜!!」


 やってられないのサー!! とデルタやそうみぃちゃんを目にも止まらない速さで追いかけ始める。無論、2人とも硝子ガラスちゃんから逃げる。


「ちょっと!?あなた、身体能力いい方なんだからそうみぃ相手の時は加減してよぉっ!そうみぃ、おこだよ!?」

「私。飛べるから。追いかけても無駄。だよ……?」


 ……次元が違いすぎる鬼ごっこが目の前で始まりました。ののにはどうしたら良いのかサッパリ検討もつかない。

 片や「これ以上近づいたら刺すから!」と武器を構え、片や床から浮いて硝子ガラスちゃんの手から器用に逃げている……。ただただ、呆気に取られてしまいます。

 生身のが混ざろうものなら一瞬で捕まりそうです……。


「ふふふふ……、今日という今日は二人とも逃がさないのサァ……。覚悟するのサ……。」


 その顔からは普段の恨みが垣間見える。


 ののは硝子ガラスちゃんも充分変わっていると思ってたけど……魔法少女の中では常識人だったのかもしれない。


 なんか、ごめん硝子ガラスちゃん。色々と苦労してるんだね……。でも、ののには見ていることしか出来ません……。


 ……誰か、止めに来てくれないかな。

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