ある会社員の日常_その5

 次の練習台を探しているうちに10日間が経ちました。

未だに次の目標は決まってはいませんが、ある出会いがありました。


その出会いと言うのは、5日ほど前に家の近所の公園の前を通った際に見かけた少年です。

少年は毎夜公園で一人、ブランコに座っていました。


始めは何か理由があり公園で親を待っているのだろうと考え、遠くから様子を見ていただけでしたが、

次の日もその次の日も少年は毎夜公園で一人、何かを待っているようでした。


さすがの私も心配になり、2日前にその少年にいったい何故毎夜この公園にいるのか声を掛けました。


そしてその子の名前はN君だということ。

また、N君は会社からリストラされ酒浸りの父親から虐待を受けており、母親もN君を守ろうとはせず見ているだけ。

これ以上は殺されると思い、両親から逃げるために昼間は友達の家を渡り歩き、

夜はこのいつもいる公園で夜を明かすという生活を10日ほど続けていたそうです。


確かによく見るとN君の服は汚れており、もう何日も家に帰っていないことがわかりました。

その日、私はN君を家に連れて帰りました。


家に戻りN君を風呂に入れ、その間に食事の用意をしました。


なんだか久しぶりに自分以外の為に料理をした気がします。

妻や子供たちが居た頃は時々ですが妻の代わりに料理をしていたのですが、最近は私一人が食べるだけだったので適当に済ませることがほとんどでした。


「お風呂ありがとうございました。」

「気にしなくてもいいんだよ。熱かったり冷たかったりしなかったかな?」

「はい、丁度良かったです」

「それならよかった。もう少しで食事もできるからソファーにでも座って待っていなさい」

「いいえ、僕にも何か手伝わせてください!」

「...そうかい、じゃあこの食器を並べておいてもらえるかな」

「はい!任せてください」

N君はそういうとテキパキと食器を並べてくれました。


〈私にはわからない。なぜこんなにいい子なのにこの子の両親は彼を虐待していたのだろう〉


「おじさんどうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。ほら、ご飯もできた。N君もそこに座って一緒に食べよう」

「はい!」


夕食にはハヤシライスを作りました。


「今はこんなものしかできなくて申し訳ないけどどうぞ食べなさい」

「いいえ、とてもおいしそうです。いただきます!」

「はい、いただきます」


「...どうかな」

「とってもおいしいです。」

「そうかい、ありがとう。お世辞でもうれしいよ」

「お世辞なんかじゃありません。

 本当に..おいしいんです。こんなにおい..おいしいごはんを..食べるのは久しぶりで...」


N君はそう涙を零しながら、本当においしそうに私の料理を食べてくれました。


「まだまだおかわりもいっぱいあるから、どんどん食べなさい」

「あり...がとうござい..ます」


私の作ったご飯をおいしそうに食べているN君の姿が殺された子供たちと重なってしまい、目頭が熱くなります。

いけないいけない、こんな小さな子に弱い部分を見せるわけにはいかない。


「ちょっと私はトイレに行ってくるから、N君はゆっくり食べていなさい」

「はい」


洗面所に行き顔を洗い、強く頬を叩き気合を入れ食事に戻りました。

そのあとは雑談をしながら食事を楽しみました。

本当に久しぶりの楽しい食事でした。



「ご馳走様でした!」

「はい、お粗末さまでした」

「後片付けは僕にさせてください!」

「そんな事気にしなくてもいいんだよ。後片付けは私がしておくから、N君はテレビでも見てゆっくりしていなさい」

「いいえ、そのくらい僕にさせてください!僕にも少しでもお返しをしたいんです!お願いします!」

「そうかい...じゃあ、お願いしようかな」

「はい!任せてください!」

そう言ったN君は、やはりテキパキと後片付けをしてくれました。


私はソファーに腰掛けこれからの事をすこし考えることにしました。

一つ、次の復讐の為の練習相手のこと

二つ、N君の今後のこと

三つ、これからの私の生活の事


まず一つ目のターゲットの事ですが、ある程度決まりました。

次の練習相手をしてもらおうと思っているのはN君の父親です。

確かにリストラは悲劇だと思います。ですが、それを理由に自分の子供に暴力をふるうのは明らかに間違っています。

しかも子供が殺されるかもしれないと思うほどの暴力というのは考えられません。

私はどうしてもN君の父親のした事が許せません。なので次の練習相手になってもらうことにしました。


二つ目のN君の今後については、できる限りのことをしてあげたいと思っています。


三つ目のこれからの私の生活は復讐のための練習とN君との生活を両立させるために気合を入れなおさなければいけない。


そんなことを考えていると、


「後片付け終わりました!」

「ありがとう。一緒にテレビでも見ようか」

「はい!」


それから布団に入るまでの間、とてもゆったりとした時間を過ごすことが出来ました。

そして、この幸せな時間を与えてくれたN君の為にもすぐにでも次の練習に取り掛かろうと心に難く決意しました。

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ある復讐者の日常 登美能那賀須泥毘古 @takatobigt

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