6.エピローグ
現実世界に、スペースコロニーが浮かんでいる。
NS‐EOTWトーラス
1
研究所のオフィスで、岸崎博士は透晶スクリーンを見つめていた。
宇宙を再現する未来予測システム〈ネオ・シビュラクロン〉がシミュレーションした模造世界は、現実側から介入しない限り、まったく同じことが起こりつづける。
つまり、現実世界で〈ネオ・シビュラクロン〉が完成された以上、ひとつ階層をくだった下層世界でも〈ネオ・シビュラクロン〉が完成するということだ。その下層、さらに下層、さらに……世界をどんどん下っていって……世界階層7505000にいた人工身体プログラムの個体情報は、昇格ポータルを抜けたことにより、時空を越えて世界階層7504999に移行した。
博士が最初に昇格ポータルを作ろうと思ったきっかけは、たったひとつの疑問だった。下層世界の、さらに下層、下層、下層――とくだっていけば、世界は無限に続いていくことになる。無限の彼方にあるものは、いったい何なのか?
その疑問は、最悪の結果をもたらした。
昇格ポータルなど、思いついてはならなかったのだ。
それは、世界階層を越えて侵入してきた。それは、人類滅亡の引き金となった。それは現実世界、世界階層1の地球で、いまも金属質のうなり声をあげている。それがなにかは、いまだに分からない。邪悪なものであることはたしかだ。
やがて博士は、卓球ラケットとピンポン玉をもって、世界探査室に向かった。ドアを抜けながら〈ザ・ワン〉管理AIに指の仕草を見せつけると、発光ダイオード灯がきらめいた。
部屋の奥に、ヴェルヌ04が座っている。
だが、様子がおかしい。天井から繋がれたセンシング・ヘルメットのコードが激震し、全身が痙攣している。メッシュチェアから機体がこぼれ落ちそうだ。岸崎博士は卓球道具をかなぐり捨てて走りだし、笠状のヘルメットを強制的に外した。
「大丈夫か、ヴェルヌ04……」
「いいえ」
翠色のアンテナがせり上がる。
博士は真正面から、無表情のアンドロイドを見つめた。
猛烈な勢いで、眼球表面をソースコードが流れる。ヴェルヌ04は、博士の手首を強烈に握りしめた。そして、「――わたしです」
↑ 秋葉金雄 @akibakaneo
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