第3話『銀河大法師ゲンジョー参上!』
序幕。あるいは、幕間。
あれからしばらくは色々ありつつ、藪崎医院に訪れた患者たちは、たまに世間話、たまにセロガン、そしてごくたまに事故を装った保険金詐欺じみた裏工作の果てに望む体を手に入れていった。
「最近はゴードン総合生命絡みの案件も増えましたし、どうやら望む顧客に情報が伝わり始めた可能性がありますね」
地面の球という味も素っ気もないこの星のプラントマネージャー兼、藪崎医院のマザーコンピューターである電子知能体カミングスーン――通称『カミさん』は、日々、藪崎医院を監視する体制を強めているエグゼリカ&オクさんの動向に気をつけている。
「エニグマの患者さんも、確かにちらほら来るようになったですわよね~。でも驚きました。思った以上に、エニグマの権利って自分から手放したものが多いんですね」
モニターのカミさんにアゲハも頷く。相変わらず白衣の看護婦だが、堂に入った着こなしをするようになった。最高級品だけあって物覚えは良いし、あろうことか限定医師免許まで取得しようと勉強までしている。そんな彼女も、医院の裏カルテにエニグマの診療記録が増えているのを意識していた。
「それでも大銀河アコンカグアの庇護を受けたいと思うはぐれエニグマだって多いのさ。そんな奴らが、戦争で嫌ってほど辛酸をなめたそんな奴らが、エニグマではない普通の体を求めることだって、決して少なくはないんだ」
藪崎ハヤテは助平雑誌を机に投げ出すと、麦茶を一杯傾ける。本人は隠していたようだが、それこそが彼を保険金詐欺という方法でエニグマ含む傷痍軍人救済に駆り立てる動機のひとつだった。もちろんのこと、彼が行うそんな行為は焼け石に水にすぎない。
「それだけに、ちょ~っとゴードンの動きが厄介になってきてるんだよなあ。警察とかそういう難しいの使うとかじゃなく、なんかこう、なあ……」
「確かに強引な介入に過ぎない行為が多く見受けられるけど、民間企業の範囲は超えてないんですよね。まあ法律よく知らないけど。大銀河法と銀河法と星系法と地域法、細かい差異なんか把握しきれませんし」
「巡検師随伴アンドールメイトがそれでいいんかよ!」
「ツッコミ、どうもありがとうございます」
使わない機能はデータベースである。しかもいつでもアクセスできる。調べ方が分かっていればそれでいいのであると彼女は胸を張る。
「あれ、少し胸大きくなってる?」
ハヤテはぽかんと口を開ける。
あきらかにアゲハの胸が大きくなってる。
「あはん?」
両手で恥ずかしそうに隠すが、隠し切れていない。
つまりはオッパイであった。つまり大容量記憶領域の拡張である。
「母乳も出そうだな」
「出ねえよ」
思わず口汚くツッコむアゲハ。
そのとき、微笑ましく見守るカミさんが、ふと通信を受信する。
「先生」
おそるおそるカミさんがふたりの微笑ましい会話に差し手を入れる。
「ビアンカさんから文章連絡が入っております」
それに「スライム星人さんの一件の、男爵令嬢です」と付け加えると、ハヤテは「おおっ」と膝を打った。名前を忘れてたらしい。
「読み上げてくれ」
「では。――これは」
カミさんが珍しく言いよどむ。
アゲハもハヤテも首をかしげる。
カミさんはひとつ咳払いをすると読み上げを再開する。
「では。『
「何だって!?」
ハヤテの腰が浮いた。あの宙域での戦闘はそれこそ終戦のかなり前、激化中の激化の果ての前線。縁者となれば、五人もいないが――。
アゲハも息をのむ。
カミさんは続ける。
「――『生態情報を確認。元兵士の名前はゲンジョー、従軍僧侶とのこと。藪崎医師に貸しがあるので迎えに来るよう求めている』……とのことです」
「あいつかあああああああああああああ!!」
ハヤテの絶叫が響き渡った。
カミさんはびっくりした。
アゲハもびっくりした。
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