第2話

何故ただの生き物である魚はよくて知的生命体の人魚なら駄目なのか。



──僕はただ『食』を楽しんでいるだけなのに。



さて、『明太子』という食べ物、料理がある。向こうではよく食べてたね。そうそう、美味しいよね。いや苦手は人もそりゃいるだろうけどさ。


あ、そういえば、こっちでは魚は空を飛ぶんだよ。知ってた?こっちにも似た料理があるんだよー、ピパム、って言うんだけどね……


それは置いといて、その似た料理ってのがね、そりゃもう美味しいんだよ。魚の卵っちゃ卵なんだけどね、ん?作り方?


あー、その辺は向こうと一緒でね?その卵と出汁かなんかに唐辛子を混ぜたものを一緒に漬けるのさ。うん。


作り方はほとんど同じさ、それに味もね。米によく合うし。こっちでも似たようなのがあるからぜひ食べてみるといい。向こうのよりは少し水分が多くて、味が微妙に違うんだ……今はこっちの米に慣れてしまったけれど。


まぁ、その『魚の卵』、こっちだと少々材料が違ってね…向こうでは『たらこ』だろう?それがこっちでは……

























───『人魚の卵』なのさ。



なに?吐き気がする?絶対たらこの方が美味しいって?それに人魚を食べるだなんて、って?それにあんな美しい『人』を食べられるかって?そうだなぁ、慣れ親しんだ味で、しかもそれしか食べたことがないんだからわからなくはないよ。うん。


僕も向こうでは、これが主流だったけれど、こっちに来てからは…いや、勿論、否定するわけではないんだよ?だが価値観の違いというものは、やはり、あるだろう?まぁこの場合は、僕が異世界文化に毒されただけなのかもしれないけれど。そうだね。君はわからないかもしれないね。でも、より美味しく、より美味しく、と試行錯誤を繰り返し、美食を追い求めていく精神は、どちらも似ていると僕は思うよ。


向こうでもこっちでも値段や味だってピンからキリまであるし、養殖された魚だって、こっちには人魚だっている。こっちの世界での常識で言えば、人魚は『食物』なんだよね。『食べ物』ならぬ『食べ者』ってね。


あぁ、そうそう。向こうでは『鮭のほぐし』なんてものがあったね。こっちでは『人魚のほぐし』ってとこだね、美味しいかったよ?


やっぱり、向こうで言えば『人』を食べようだなんて考えもしないし、ありえないこと、とされているからね、



……うん?やっぱり知的生命体だから、食べるのに抵抗がある?意思があって、心があるからって?はっはっは、そんなの偽善さ。 



『美味しいから』これが理由じゃいけないのかい?じゃあ君は、もしも栄養も量も十分足りて生きて成長することが出来る、というなら空気を一生食べ続けることが果たして出来るのかい?もちろん、食べ物の『味』を知っているのなら、ここでNO、と答える人が大半だろうがね。そう、味だ。美味いから、食う。美食の概念なんてそんなもんさ。だから僕たちは人魚を食うのさ。相手が例え知能や心をもった生き物でもね。これは仕方ないことなのさ、だって価値観が違うんだから。君も向こうでの価値観に引き摺られたままだと、生きづらい世界だよ。多分。君が想像している以上に。


僕?僕は、まぁ、そうだね……これでも適応力はあるからね。こっちでの生活も慣れたもんさ。はっはっは。

































僕はある日突然、異世界に来た。いや、『連れてこられた』。

別に来たかったわけでもないんだけれど、来てしまったからには仕方ない。臨機応変に生きていこう。はっはっは。



ここは、異世界。そう。紛れもなくね。なんせ魚が空を飛んでいるくらいだし、辺りを見渡せば、……



























────前の世界にはいなかった、『美味しそう』な『食材』が、あちらこちらにいるんだから、ね。

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異世界ごはんに憧れて 藤田明石 @fafafalife

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