第2話ハレ? 所により膝蹴りが降るでしょう
「管理人殿。管理人殿! 一大事でござる!」
遠くから、聞き覚えのない声がする。
昔から寮生活や一人暮らしが長かった。そんな僕に、朝から若い女性の声が聞こえるなんてイベントは起こってこなかったし、起こる予定もなかった。
うん、夢だな。
昨日は大変だったし。きっと、夢に違いない……。
「かっ管理人殿。一大事でござる! 早く起きてくだされ! それに、こっちもさらに一大事でござるよ! ああ、拙者……。もう、もちませ……ぬ!」
強烈な
体がその一点で『くの字』に折れ曲がってしまう程の衝撃が布団の上から加わった。
「早く起きるでござるよ、管理人殿。頭に血が上ってしまって、大変だったでござる」
まだ痛みは続いている。ていうか、なんだか重い。
しかも何故だか非難されている気がする。
ただ、聞きなれない声はまるで夢の世界にいるようにも感じた。
でも、痛みと重みは紛れもなく本物だ。
現状を理解するために、眠っていた意識がフル回転で動き出す。
視界には、一部分だけ畳になった天井がある。見慣れない天井だけど、昨日は畳ではなかったはずだ。ていうか、天井に畳があるなんて信じられない。
――そして、痛みと重みを感じる腹の上には、いまだにそこで正座している忍者がいた。
覆面はしていないけど、恰好は忍者そのもの。紫のくノ一が頭をかきながら、はにかんだ笑顔を見せていた。
「いいかげん、そこから降りてくれないかな?」
「おや、良い座布団でござったのに」
コイツだ。さっきの声は間違いなくコイツだ。
そして、腹部の衝撃もコイツのせいだ。そして、何気に人を座布団認定しやがった。
「で? 君は確か、
でも、確か一大事という言葉を聞いた気がする。
「そうでござった! 一大事でござる! ささ、参られよ。あと、良い座り心地でござったよ」
「なんかおかしい! それに、どこにいくのさ?」
あっという間に布団を剥ぎ取り、無理やり立たせた後、手を引いて管理人室から連れ出そうとしていた。
――まさか、忍術か? いやいや、そんなはず……。そう言えば、
ただ、今はそれを考えている場合でもなかった。
「食堂でござるよ。ささ、早う、早う!」
「いや、パジャマだし、顔も洗ってないよ!」
「どうでもよいでござる。『寝間着も衣装』というでござるよ」
「それを言うなら、『馬子にも衣装』だよ。それに、使い方が間違ってる!」
「細かいでござるな、そんな事では管理人から出世できないでござる」
「細かくない! それに管理人からの出世ってなんだよ? 興味ないけど」
「管理人とは、恐らく草履とりの事でござる。玄関横に詰所があるから、間違いござらん。ちなみに拙者はその上の部屋にいるでござるよ。だから、管理人殿より偉いでござる」
「あのね、管理人は管理する人。この屋敷の責任者だよ?」
「なんと! それで局長殿より直々のお達しがあったのか! いつの間に下剋上を成功させた?
「いや、そうじゃないと思うけど? でも、さすが歴史という記録の顕現者。どんな文字が浮んだのか、すんなり頭に入ってくるね。それより、一大事なんだろ? 一応着替えるけど、いいかい?」
「そうでござった。急ぐでござる。しかし、管理人殿の
「うん、手早く着替えるから、一応向こう向いてて? 見られてると恥ずかしい。あと、その何かくれ的な手はひっこめようね」
「良いではござらぬか。拙者つぶさに記録するでござるよ。仕方がない。褒美は出世払いでよいでござる」
「いいよ、しなくて。それと、何もないって」
「どっちでござる? 良いのか、悪いのか? しかも、褒美なしとはとんだ仕打ち!」
「しなくていい。あっち向いてて! それと、とんだ仕打ちは、こっちのセリフだ! まだ腹が痛いんだからな!」
「承知したでござる。過ぎた事は気にしないでござる」
「急ぐよ。もう黙ってようね」
「しょうがないでござるな」
朝からこれほど
この世界に顕現した
昨日ある程度紹介されてみたものの、それぞれの時代を見事に反映していた。
江戸時代の
大正時代の
そして、昭和時代の
この戦国時代の
ただ、代表的な服装をしているだけでなく、特徴的な人物の姿をまねている場合もあった。
安土桃山時代の
鎌倉時代の
「もういいでござるか?」
「そうだね。お待たせ」
顔を洗ってないのは仕方がない。とにかく一大事の理由が……。
「ところで、一大事って、具体的にはどうしたんだい?」
言葉とは裏腹に、
「そうでござった! 一大事でござるよ。タイム魔神が攻めてきたでござる」
あまりに衝撃的な話に、僕の理解は遅刻していた。
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