わたぬき

うそが秘密を奏でるうちに

歳月はやがて過ぎゆく暮らし

そんな暮らしにも家があって

そんな家にも窓はあるから

そのような窓という窓を割って

投擲される拳ほどの岩

床に転げる四肢なき肢体に

青ざめた斧で天誅をくだす

黒の底から露わとなった

ちろちろ燃え立つ緋色の舌が

嗤う時間もあたえることなく

割れ目をおおきく

張り裂けんばかりに仕立てると

あっけなく弾けた腹膜が

力なく噴きこぼれてしまう

赤黒くて淑やかな臓物

そいつを鉤爪で

掻き出せば

  「いきているって云ってみろ

      いやいきるって案外

      こういうことかも」

床という床にはそんな岩が

床板を埋め尽くすほど降り積もり

窓のない窓はつきつぎに岩を

招き入れるから

やがて彼らは痺れる利き腕ごと

わたしを埋め尽くしてしまう

屋根のない屋根を見上げれば

空は晴れ晴れと澄みわたり

鳶がひょうひょうと舞い上がる

やがて地平に日暮れが迫り

葡萄色の光が雪崩れ込むと

鳶は分裂し空を埋め尽くし

鏃のような翼をひろげて

身動きも取れずひしめいていく

糸のような肢体をよじって

選ばれし一羽が淑やかに降り立ち

わたしの水晶体をたべてしまう

       「いきているぞ」

と、ささやいて

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