古名

掻把された墨色のなか

書き割られた満月が

あられもなくひらかれている


嵐がわたる

九月の浜辺には誰もいない

灰褐色が泡立つ波間に

不法投棄が洗われている


潮風に渇く雑木と

磔にされたNPC

夢のほとりで火を放たれて

ふしぎな煙の筋がいくつも

叩きつける雨滴のあいだを縫い

とぐろを巻いて、こみ上げてくる


濡れそぼつ砂に膝をつけて

指を埋める祈りのしぐさ

吸いつく甘露のこころよい冷たさ


わたしは跪き

原色の唾を吐く


火ぶくれに爆ぜる水音が

嵐に蟠り

叢雲となる

煙のなかに溶け出した脂肪が

渦を描き

臙脂色の楕円に固着する


見上げるわたしの

眼窩も抉られて昏い


そうして

天地にぽっかり灯る

洞たちを

望月とよびなさい

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