密輸}{売血

お母さん、あたしはしんだら

象牙になりますから、

この

乾飯のようにのっぺり佇立する膨大な白磁を

悼辞よりもはやく夜明けの草原に運び出し

黒曜石の鈍角で撲ってください

鋸で切り出してください

いやそれよりも頬ずりをしてください

朝焼けに濁るそうぼうに

藍の凝った爪を立て

ほほえむあなたをかんじるだけで

神経はくつろいで腐敗をていする

そうして芯までくたびれた

牙を

まずしい極東の青い国の

まるい紳士らに高値で売りつけ

身銭の足しにしてください

胎でさいたいにつながれ

頭骨を癒合したままの

きょうだいが飢えないうちに


極東であたしは劈頭に

朱い血をぬられ、

かかる紳士らの債権を保証いたします

幾度も血を垂らしそれでいて

斃れることなく

なんとなればしんでいるので

これ以上はしねないのですね

肥えた拇指と示指に把持され

しなない牙をもてあまし

じつに胡乱な多幸にひたっている

そのあいだにも

いくつもの鋸で切り出されては出荷され

諸所に門戸をかまえる

郵便局に、銀行に、港に、裁判所に

すなわち不埒な階級を鳩居に持ち込むための

あの、公共性とか名指される壇上へ

あたしはつぎつぎ転がり出るのだ咎人の黒い

指のように

むろん、

指を落とすための決議にも

劈頭の血は購われるのであります

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