蟹
洗いたての鋏で
くり抜いた目玉のように
月は円く
任意の指先で位置を
ずらすことができるので
青い夜を
自在に移動し
天象を監視することが可能だ
くり抜かれた星が
床いちめんに散乱している
指を濡らして
夜に詰め込むと
下水管のように卑猥で
清潔な構造を獲得したから
刻々と変態し
朝を招来することが不可能だ
おととい
食品売り場で
買った目玉を
雑貨売り場で
盗んだ夜に
貼りつけていく
残りはまだ
冷蔵庫の野菜室で
ぎちぎちと干からびている
月のように星のように
貨車に積み込んだ異人のように
夜になると
惑星の外皮は様変わりしていた
垂直に突き立つ尖塔どもに眼差されて
滑空する巨大な飛膜は血の通う天幕である
その被覆を透かす光彩の変遷は
樹状の巣を張る営造物がもたらすもので
とどまることを知らず光輝を放ち
それでいてみごとに等閑視されている
その滑空に密封された生成りの大地を
石油工場から配給された無数の鉄路を
車軸が律動のように回転する音、が、が、
がつ、がつ、がっ、ガっ、がッ、ガッ、
gaッ、gattu、gttu、gtt
gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt, gt,
gtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgtgt
だれもが事情をかかえていますので
ひとそれぞれに害意がありますので
異人積載もそれぞれの害意ですので
わたくしはひとをやめましたので
横断と爬行のはて
まもなく内輪差に巻き込まれて
「ご安全に。」
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