使用済みの魔法

吐き捨てられ黒ずんだ

歩道のガムのように、

袋とじを姦通された

ファミリーストアの卑猥褻雑誌のように、

この国では日夜、

使用済みの魔法が息を引き取る。


指の腹が吸いつく木板のテーブル、

ジョッキ一杯・壱百五拾円のビール。

脂がこびりついた壁に、磔にされた

ありがとうの気持ちに、

想起せざるをえない。

基本給に残業代が含まれること。


清潔な河口も清潔な朝の祈りも知らず、

律動のための太鼓をあざけるチンドン屋。

このところ、たのしいせいかつで寝る暇もないね、

コンマ数ミリの薄さの

×××××が、

ペンギン屋の黄色い袋から、透けてやがる。


黒ずんだガムがスロープに

吸いつく階段を昇って、

連絡線のホームに並ぶ毎日。

彼岸はスーツを着て死亡遊戯に興じているよ、

此岸じゃ亡命用アプリを起動中。

傍から見りゃ同類なんだけど。


この国ではもはや、

使用されていない魔法はありません。

魔法使いは轢死屍のようにあふれて、

特殊な雇用形態の逓増は特殊性を収奪する。

地元の市役所に出かけてみろよ。

臨終と福利厚生のシャカイセイに

生涯学習は不適合。労働市場からご退出願います。


使用済みの経済、

使用済みの行政、

使用済みの挽歌、

使用済みの視界、

使用済みのハンドル、

使用済みのワイパー、

使用済みの悲しみ、

のための驟雨が

誰も知らない口笛と住宅街に、

父を濡らした。

息子は今や、

湿り気を帯びて重たい自転車のサドルが連れ出した、

二度はゆけぬ街の果てを車窓にうつす。


むかしむかしあるところに

倚りかからないと決めた魔女がいて、

チンドン屋は愉しげに彼女を焚書、

魔法は魔女の、孤独の発明だというのに。


おまえたちの使いさしをあつめて、

ハサミを入れて

遺伝子を組み換え

滑稽な似姿を映してやるという、


遺言を聞いたか?

遺言を聞いたか?

「30秒以内にメッセージを録音してください。1秒につき42.5円の通話料金が……」


「鎮魂歌よ、ぼくに続け。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る