あなたは鉱山

「もうずっと、同じところにいる気がするのだけれど、あなたの奥へと絶え間なく掘り進んでいるのだから、そんな道理はないとわたしはわたしに言い聞かせる。わたしの想念はわたしに親しく、肉の削げた尻を存分に冷やす。」


「水晶の国で瑪瑙に盲いて、あなたの痘痕あばたに辿り着いた朝、わたしの骨は泥で練り上げられ、はだの下には尿いばりが流れていた。ひそかにひらける硬質のむろへ、導かれるように闖入したのは、この身を留める鋳型としての岩壁への、恋わずらいゆえ。」


「わたしの末梢は今や衰えて、触角としてのあらゆる権能を放棄した。わたしはそれを望んできた。弛みを帯びた導管となって、あなたを食んであなたをるような、清潔で遅滞なき生き物になりたかったのだ。」


「惰眠を貪るのではなく、昏睡の体熱で蠢きながら沈みゆくような、そんな掘削をいつしか望んでいた。錆びた花崗岩に触手を絡ませ、一滴の羊水に舌を鎔かす。鉋の味がした。わたしの夙志は叶えられたのだろうか。」


「どのような卑しさにも惑いはしない。あらゆる愚鈍と蛮性は漿液であり、わたしがわたしであることと引き換えに、この身に浸みては凍みていく。この、茶碗を箸で鳴らすような喜悦に、血の倦んだ鼻孔を震わせるばかりである。」


「狭隘な暗所から出でし預言者は、堆肥に匂い立つ隧道をさまよい、預言を憶えることなく暗所へ還る。おのれの垂れた堆積にまみれて。削れて丸まり、秕のような爪で口吻を裂いて。あなたがあなたのはらわたに掲げる警句を、喉に詰め込んで。……」


 〈わたしは鉱山

  堪え難きもの

  あなたは水替

  謂れ多きもの

  満腔のうつおの底

  この世は荒野が眠るための夢〉

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