渇く

こんな真夏の農道で

パジャマのまま座り込んでしまった

君は泣いていた


倉庫から盗んだ発泡酒の

空き缶を手持ち無沙汰に抱えたまま

何も言わずに僕は


何も言えなかった

舌の根が渇いて


プレハブの駅舎の庇には

スズメバチの巣が吊り下がり

その下にはアブラムシが棲むチューリップ


僕らが棲むこの街では

いつも老人の行方がわからず

もうすぐ激しい夕立がくる


「服装は――、

 八〇センチのこびとは――、

 お心当たりのあるかたは、

 安置所まで。」


何も言わずに

汚れた雨を呑んで


汚れた舌で

語り始めたそのとき


「渇くんだ。」とつぶやいて破裂した君の

漿膜が用水路に流れ込んで


すくい上げようと駆るこの指を

投げ捨てた空き缶を夜の帳は噛んで離さない

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