みずいろの獣
みずいろの空があるのにみずいろの獣はいない。ちがうところにいるから、うわさにも聞き及ばない。空。一刻ずつ眩くも昏くもなる、か細い連続体。その拡散と浸透をさえぎる、灰色の坂と海鳥の港。背後にそびえる、稜線の若木たちが見下ろす錆びた舗道を、小旗のように腕をひろげ、ひるがえし、ぎしぎし歩いていく。胸元に潮風が吹きこんで、子犬ほどの生き物の毛並みを、体熱を抱きしめている、そういう瞬間があって、そのときあらゆるものの気配は太陽となり、銀色の針となって心臓に刺さる。漏斗のように細かい穴を空けて、光は屈折し、虹を放つ。みずいろの爪が臓器に牙を立てる。綿菓子のように引き裂かれ、天花粉のように舞い上がる。灰色の海は沸騰し、海鳥の糞とおなじ色の清潔な波濤が怒張する。ひとつながりに、ひろびろと横臥し、舗道を白ませ、若木たちを潮気に酔わせる。それらを見下ろす。連続体とおなじところから。野蛮なところは、すこしもない。
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