地の果てまで地割れが、あるいは群体/軍隊としての手振りが

酒宴へ急ぐ午後

乗り込んだ電車の窓から

青空を裂け目のように走る

ひとすじの雲


三国志の英雄の墓から

一本の短剣が出土という報道


寒空は

大いなる奔流のように流麗だったが

分断する切っ先のような

ひとさじの不穏


それが頭を引き裂いた

地割れのように


異国の地層に埋もれていた墓は

記憶の堆積よりむしろ

分裂

分解

分岐

分断

を示唆してはいないか?


ビルの窓からビルたちの明かり

あの窓たちのそれぞれは

この明かりと交わらない生き死に

白紙を引き裂く平行線


夢想する

線はタイトロープ

捻じ曲がった直線が

いっさいの暁闇を

ひとすじの光線のようにつらぬく

ぴんと張られた白い縄

あらゆる者は観客のいない曲芸師

行軍する

行軍する


離れた縄をゆくものに手を振り

手を振られたものは

手振りの意味が皆目わからない

交信たちそのものが光だと

なにかの漫画で示唆?

なら

暁闇での群体は蛍のような軍隊にちがいない


ひとつながりの大陸ではなかった

地続きの空ではなかった

裂け目は深い

行軍も史学も救命ロープも

呑み込んでゆく

吐き気と感銘の挟み撃ち!

振りかえることなく地の果てまで一息に走り抜けたい

そうすればこの気持ちは振り落とせる

古代の英雄たちの

怜悧に

勇猛に

猥雑に

厭らしく吐き気をもよおすように

ほとんど死にたくなるほど

膨大な行軍が理解

できない


頭は地割れ

大いなる奔流が

傷口のように染みても

痩せた赤土はすぐ乾く


寒いからセーターを着よう


**県

縫製工場

研修生

「いまにも崩れ落ちそうな古い木造平屋建ての寮は、食卓が置かれたダイニングキッチンと、寝室だけの小さな間取りだった。ここに六人の実習生が住んでいる。寝室には二段ベッドが人数分、並んでいた。それにしても寒い。家の中には暖房設備が何もなかった。すきま風が入り込み、吐く息も白い。六人の女性たちは全員がダウンジャケットを着ていた」

Made in Japan

Made by C******

「トイレに行きたい」

「き

 ゅ

 う

 り

 ょ

 うよりマイナスします」


引き裂かれた

大陸たち

地面たち

行軍たち

史学たち


この手振りもまた

手振りたちのひとつにすぎないとしたら


「寒いから暖め合おう」とビルの広告が電車の窓から

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