引きこもりのクズでも立派になれますか?

@yoshikuri

第1話 その男は

有り体に言って、その男は人間のクズであった。


中流階級にしてはそこそこ裕福な家庭で育ったが、両親は若くして交通事故で死亡。遺産で一生生きていけるだけの金を手に入れた。

そして、男はその金ですぐに引きこもった。


その時期には、VR技術が発達し、数々のVRゲームが世に出されていた。

VRゲーム。


それは、ゲームの世界に自らが入ることが出来る――正に夢のゲームだ。

シューティングゲーム。音楽ゲーム。対戦ゲーム。オンラインRPG。

その全てがVR化したゲームである。


男は、遺産の金で目に付いたゲームを片っ端から買い、ひたすら遊んだ。

才能はそれほど無かったが、それでも時間は沢山あった。日常の時間のほぼ全てをゲームに使い、気がつけばゲーム世界でもかなり有名になっていた。


しかし、現実とゲームの実力は反比例するものだ。

ゲーム世界では覇を極めた彼は、現実世界の弱者になっていた……。


普通に働いて生活している人から見れば、軽蔑されるだろう。働かず、その時間を全てゲームに使っていたのだから……しかも、遺産の金で。

いや、しかし、見る人が見れば、羨ましく思うかもしれない。働かないで一生遊んで暮らす。それは、一種の理想的な人生だろう。

しかし、それに彼は優越感を持つことはない。


『働かないで食う飯は旨いわぁ~』

『一日中ゲーム出来る俺マジ勝ち組! 』


そんな風に自分に言い訳しながらも、終わりの無い逃避行を続けようとも、ふと思うのだ。――これからどうなるんだろう?

お金はある。一生働かないで生きていける。遊ぶ金だって充分だ。


だけど。

ひとりぼっちの孤独感が自分を苛む。

ネットで出来た友人たち、自分と同じようなニートや引きこもりのダメ人間たちが現実に歩んでいく姿を何度も見て、自分の惨めさを思い知る。


変わりたい――けど変われない。

外が死ぬほど怖い。現実に向き合いたくない。今の自分を直視したくない。


死にたい――けど死ねない。

死ぬのは怖い。絶対に死にたくない。終わりたくない。生きていたい。


惨めな姿でも生きていたい。だけど、そんな自分は嫌だ。

立派に生きたい。だけど、こんな今更……変われない。


そんなジレンマに襲われる。

変わりたい、変わりたくない、死にたい、死にたくない、そんな混沌としたジレンマに襲われながらも、今日も彼は惨めな一日を送っていく――筈だった。

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