第8話 神は勉強をする

それから、僕は、勉強をし始めた。


死ぬほど、勉強をした。


一回死にかけるくらい、僕は、勉強して、勉強して、勉強した。


学校に行って、昼ご飯を食べずに、勉強した。


放課後も、ギリギリまで図書館にこもって勉強をしていた。


夢でも、勉強する夢を見るくらい勉強した。


天咲さんの姿を見て「今日も生きている」と安心した後


やっぱり、勉強した。


『天神大学の医学部の推薦?ああ・・成績表でオール4を取らないと無理だよ。それに八神は最近、欠席も多いし・・・難しいな・・特A推薦がないと・・・授業料も無料にならないし・・・』


『先生・・・どうしても僕は医学部に入らなきゃいけないんです!勉強もします、何でもします。だから・・・』


『八神・・・急にやる気を出して・・・どうしたんだ?お前?何かあったのか?』


『・・・先生・・・僕は神になるんです!』


『はあ?何言ってるんだお前?』


『天咲さんを救うんです!』


八神は、悪魔のように歪んだ顔を先生に向けた。その鬼気迫る顔を見て、先生は八神の中に、鬼神の影を見た。


『そうか・・・天咲が・・・・・』


先生は、八神から事情をすべて理解した。


『でも・・・お前・・・あと・・・半年もないぞ?国立だったら、センター試験まであと3カ月くらいしか・・』


『寝ないです!寝ないで勉強します!』


『八神・・・』


『僕は神ですから!!』


八神は、本当に神になろうとしていた。後悔する時間も、悩む時間も惜しかった。両親が心配しても、関係がなかった。天咲にこの世に生きてほしくて、彼女を本当の天国に行かせるには、まだ早いと思った。


「天咲さん、”まだ”君を天使にはしない!」


八神は、胸が熱くなった。こんなにも人のために何かをするなんて、初めてだった。この胸を熱くする気持ちはなんだ?


『どうして僕は、天咲さんの為に寝ないで、勉強しているのだろう?』


ふと、シャーペンを握る手が止まる。神になるため?神になって、天咲さんを救うため?どうして?何で救う?自殺を止めたから?



『そうか・・・俺は、天咲さんを好きになっていたんだ!!』


八神は、目の端から水が零れ落ちた心のカケラが、ノートを濡らしても、気にしなかった。それよりも、自分の天咲さんへの想いを止めることができなかった。


彼女の、奇想天外な発想も、サイコパスな感じも、自分を神様として信じる心も、現実のつまらなさを知ったあの目も


「すべて、僕が好きな天咲さんだ!」


ああ、内蔵(ふ)におちた。すべてが、僕の中にあった。


神になる意味は、僕の中にすべてあったのだ!


天咲さんのおかげだ。


八神は、涙を流しながら、勉強へ向かっていった。


もう時間がない、でもやるしかない


医学部受験まで、あと2か月


死ぬ以外はかすり傷という名の名言を頭で想いながら


今日も、神になるために


机に向かう以外に


八神は、天咲を救う方法を


まだ知らなかった・・・・


つづく

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八神くんと天咲さんの「死ぬまでの距離」 三上 真一 @ark2982

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