第7話 堕天使の涙と本当の神

天咲さんは、自称天使になる前に、医学部を目指していた?


自身で不治の病に侵されながら、目の前に転がっていた『生』にもがき、それを乗り越えるために勉強して医者になるための醒めない夢を、かつて見ていた?


八神は、天咲さんの背中に上に『正気』と『狂気』という名の龍(ドラゴン)が、複雑に生と死を繰り広げて絡み合う、そんなナニカを見たような気がした。


「天咲さん!」


八神は、その日以来、言葉を交わさなかった天咲さんに、遂(つい)に声をかけた。天咲さんと何か話そうと思っていたが、そのきっかけが見つからなかった。だが、もしかしたら、彼女は正気の狂気を装っているだけではないか?というその気を確かめたかったのかもしれない。


「八神君・・」


もう、神様と呼んでくれない冷たい目は、容赦なく僕の身体を突き抜け、肉体の中にある神経を刃で突き刺した。


「あのさ・・・」


「何・・?」


視線が容赦なく突き刺さる。なんて声をかけていいかわからない。僕は神様を止めてから、天咲さんとの主従関係が逆転したような気がした。天咲さんが神になり、僕が天使という名の奴隷に変わったような気がした。


「私には時間がないの。八神君、はやく何が言いたいの?」


「・・・えっと・・・そうだな・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・天咲さん・・・俺・・・」


「・・・うん・・・」


「来年の3月までに神様になる!」


「・・・えっ・・・・?」


もう、そんな御伽噺(おとぎばなし・茶番)は、とっくに終わったのに・・という顔を、天咲さんは、僕に向けた。天使ではなく、『堕天使』になった彼女を見ても、僕の決意は、変わらなかった。


「無理かもしれない。でも、君のために死ぬほど努力するんだ!だから、死ぬんじゃない!天咲さん」


「・・・・・・・・・」


「君を、3月に迎えに行く。新しく生まれ変わった自分を見せたいんだ。だから、生きるんだ!天咲さん!」


「わかった・・・」


天咲さんは、目に涙を浮かべていた。天使のような目で、僕を。


「君がかなえられなかった夢は、僕が引き継ぐよ!じゃあ!」


八神は、そういって天咲さんの返事も聞かずに、廊下を走っていった。


時間がない。僕は決めたんだ。本気の本気で神様になるんだ!


天咲さんの


天咲さんだけの


『本当の神に』


八神は、書店に直行し


赤い本を買った。


自分の将来が決まった


秋の初めの寒い


日だった。


つづく

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