第6話 僕は神なんかじゃない!

『八神君・・・あなたが神様なら・・不治の病の私を・・・救って・・・お願い』


あの天咲さんの告白の日から、僕たちの「神様ごっこ遊び」は、突然終わった。僕と天崎さんは、神と天使ではなくなり、『普通の人間』に戻っていた。


天咲さんは「人間として」学校に通っていたが、授業を受けていても、彼女の魂は、この場所にはいないような気がした。ずっと教室の窓の外を見、この学校という名の牢獄から、解放されたがっているようだった。


「・・・・・つまんない・・・・」


時折、聞こえてくる彼女のひとりごとに、まわりは一切、反応しなかった。彼女のすべてを無視していた。いや、もしかしたら、天咲さんの声は、神である僕にしか聞こえないのかもしれない。僕は、天咲さんの天使のつぶやきを、僕だけが聞こえているという優越感に少し浸っていた。


「よう八神、何で、おまえら普通に学校来てんだ?」


隣の席の、阿熊(あくま)が話しかけてくる。僕はそんな声を無視した。


「もうやらないのかよ?あのおまえと天咲のサイコパスなやりとり・・・意外と面白かったんだぜ?ネタとしてな」


「・・・・・・・・」


こっちが無視しているのに、阿熊は話を止めない。その顔に僕はイライラしてきた。


「あいつアスペルガーかもな?自称天使ちゃんなんて、ちょっとイっちゃってるよな・・お前も神とか言っちゃってさ、こんな大事な時期に何やってるんだか・・まっ、いい受験勉強の合間の頭をほぐすネタになったし、ありがとさん。」


「てめぇ!」


僕は、頭を叩く阿熊に怒りを爆発させた。


「なんだよ・・・やんのかよ・・・神が暴力ふるっていいのかよ・・・?」


「・・・・・・・」


阿熊は、手を振って、戦闘意志はないというアピールをした。そしてまた話を続けた。


「お前らいいよな・・こんな大事な時期に遊んでられるんだからよ・・うらやましいぜ・・・神様・・・俺らみたいなつまんない人間は、このままじゃ将来ないから勉強して、医者になるために必死で寝ないでやってんだぜ?文句ぐらい言ってもいいじゃねぇかよ」


「俺は・・・俺は・・・」


「・・・・俺は・・・神じゃねーんだよ・・・」


僕の目から涙があふれた。こんな悪魔みたいな奴にからかわれ、天咲さんの命も救えない・・・神でも何でもない、神のマガイモノである僕は、これからどうしたら・・


「そうか・・・じゃあ・・・勉強しろよ・・・」


「・・・・・・・」


当たり前のことを、当たり前にいう阿熊は、悪魔ではなかった。


「・・・でも・・・俺は・・・神様じゃ・・」


「でもじゃねーよ。だったら勉強しろよ・・・やりたいことないなら・・・医学部にでも行けば?いまなら・・・授業料無料になる申し込みもできるしさ・・」


「え・・・医学部・・・?」


八神は、瞬きを何度も繰り返した。なぜ、此処(ここ)で医学部がでてくるのだ?


「・・・天咲は最初・・・医学部を目指してたんだぜ?お前も目指せば?」


「・・・天咲さんが・・・?」


八神は、阿熊から目線の照準を外し、改めて天咲さんをみた。

「・・・・・・・・・・・・」


天咲さんは、相変わらず、窓の外の向こうにある


天国と地獄の間を、


いつまでも


いつまでも


見つめていた。


つづく



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