「こらっ悠椰っ! 人の部屋にはいるときにはノックをしなさいって何度言ったら分かるの!」

はっ!???!?!?!??!?!

「いやまって全然状況がつかめないんだけど、え、何コレ」

 俺の目の前には、なにやら重厚そうな装備に身を包んだ母親、俺の母親が座っている。

「えっ、何、知り合いなの?」

 モカがかなり不思議そうに聞いてくるが、いや、知り合いも何もこいつ俺の母親なんだけど。俺の肉親なんですけど!!!

「えっ、ここ魔王の部屋だよね」

「え、魔王は私だけど」

 母親がさも当然のように言い放った。

「ええちょっとまって本当二人はどういう関係なの!?」

 モカはさらに困惑している。そりゃあ、そうだよな。だって、魔王の部屋に突入したら魔王と仲間が身内的な会話を繰り広げているんだから。

「おや、モカじゃないか。来ていたのか。」

 今度は後ろから声がする。

「お父さん!?」

 いやまてまてまてまてまてまて、そっちもかよ、そっちも親が居るのかよ。

「モカさん、あなたのお父さんは一度英雄になったあと暗黒面に落ちたのよ、フハハ。」

 最後のフハハ、という笑い声だけ魔王っぽいのだがそれ以外は完全に井戸端で会議をするただのおばちゃん。なんだ、この魔王。

「英雄!?」

 モカはそこに驚いたらしい。そういえば、デリアだかダリアだかが柳澤の名前を聞いてかなり驚いていたっけ。

 ああ、そういうことか。この世界には苗字という概念がなくって、柳澤も立派な名前なわけだ。それで、英雄と同じ名前なモカが……ほーん。

 モカの父親は俺たちの間をとおりすぎて俺の母親の横についた。

「それじゃあ、戦いましょうか。世界を賭けて」

 ちょっとまて、なんで母親と世界を賭けて戦わなにゃいかんのだ。

 死んで生き返ったかと思えば母親が魔王でいざ戦ってどないやねん。どないやねん。

 しかも世界を賭けて、なんて言っている魔王の顔はただのおばちゃん。首から上を隠せばそこそこかっこいいのだが、首を入れてしまうとただの厨二病おばちゃんである。まったく、締まらないというかなんというか。

 がしかし、せっかく日本刀を貰ったのだ。使わないわけにはいくまい。

「よっしゃ先手必勝!」

 日本刀を抜いて母親に切りかかると、途中でモカの父が間に入って腕で俺の刀をうけとめた。どうやら金属が入っているらしく、まったくモカの父親の腕に傷が付いた様子はない。

 モカも援護射撃と適当に魔法を打っているが、全然当たっていない。というか、火属性の魔法を放ってそれをうちの母親が避けると奥にあった本棚に直撃して本棚が燃え上がる。それが飛び火してベッドも焼け焦げ、まあ見事にうちの母親の部屋らしいこの部屋は丸こげである。

 いやまあ、焼けるのはどうやら家具だけらしい。壁や床、天上はまったく変化がない。

「そろそろ決着をつけましょう。親子対決しましょうか」

 漸く母親は動いた。しかしそのうちの母親の動きは非常に遅い。そりゃあ、四十台のただのおばちゃんなのだから当然と言えば当然だが。

 一方モカの父親は速い。モカの魔法はことごとく避けられ、粉砕されている。

 とりあえず母親が魔王ということでなんの躊躇いも無く母親の胸あたりに刀を突き立て、一気に引き抜く。

 母親が

「フハハハ、我が子よ、ここまで強くなったか」

なんて言っているがお前が弱いだけだぞ。

 そしてモカの魔法を避けまくっているモカの父親の背後に忍び寄り、首をトンってやる。

「うげっ」

 間の抜けた声を上げて、英雄は案外簡単に気絶した。 


 暫くたって、モカの父親は起き上がった。俺は首に刀を突きつけて、

「なんでこうなったんすか」

と問う。

「ある日突然私は日本からこの世界に飛ばされ、漸くこの世界の魔王を討ち果たしてこっちで子を作って、まあそれがモカでな。それで神に頼んで一度地球に戻ったんだ。そのときに那月さん、君の母親に誘われて魔王軍に入った。なんか、楽しそうだったんでな。ハハ」

 楽しそうだったんでな、ハハ、じゃねぇよ。どこも楽しくねぇから。

「それでなぁ、那月さんはいろいろな世界を侵略して回っていたんだが、あるときこの世界を標的にしようと考えた。そうしたらその矢先に君が死んで、最初は計画を中止する予定だったんだ。でも、結局計画はそのまま使われることになった。どういう心の変化があったのかはわからないけれどね。」

 いや、心変わりするんじゃねぇよ。そのまま俺の死に打ちひしがれて異世界を侵略するのやめろよ。

「それで、今に至る。」

 今に至る、じゃねぇよ。なんなんだ、結局。よくわからん。

「ところで、俺は帰れるんですか?」

「ああ、神に会えば帰してくれるかもしれないな」

  そのときふわーっと柔らかな光が当たりをつつんで、それはそれは神々しい女神様が現れた。

「柳澤さん、失望しました。今すぐ地上に落ちなさい」

 モカの父親をバッサリと切り捨て地上に落っことしたその女神は、

「さあお二方、どうしますか。悠椰クン、もとの世界に返りますか。モカさん、もとの生活に戻りますか」

俺は迷わず言う。

「この世界に残るな。別に、帰っても特にすることないし」

「えっっっっ」

えっじゃねぇよ。

「普通それって戻るものなんじゃないんですか!? だって、まあ、確かにね? ちょっとモカさんといい感じになっていたかもしれないけれどね!? えっ!?」

 いやもうどうでもいいから。いい感じってなんだよ、毎日隣で寝てるのに何一つなかったよチクショウ。

「ああもういいやどうにでもなれーっ!!」

 女神はなんとも締まらない台詞を残してどこかへ消えた。

 そして今俺たちが居る球体は徐々に崩壊を始める。

 バラバラに崩れて俺たちも落ちそうになる。

「キャーっ!!!」

 モカの悲鳴、そして唐突に下に落ちる感覚。どうやら宙に投げ出されたらしい。

 空中でモカをキャッチし、そのまま落下する。

 そして途中でふっと止まる。まだ空中、どうやら俺たちは浮いているらしい。初めて体験する浮遊感、よくわからないけれど高知の山奥でできる空を飛ぶ奴はこんな感じの気分なんだろうか。

 まあ、それはいいとして、俺たちはゆっくりと、家の敷地に降りていく。街でも城でもなく、家に下ろしたところに少し関心。

 丁度地上に降り立ってモカと抱き合っているような格好になっているときに門がガラリと音をたてて開いて、

「おいやったじゃねぇ……か……お取り込みのところ失礼いたしやした、旦那」

 シュテファンが入ってきた。いや別に何もしてないからな、俺。

 モカは顔を赤らめて、

「お取り込み……する?」

と言ってきた。

 まだしねぇよ。

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転生した世界は和と洋が混ざり合ったよくわからない世界でした。 七条ミル @Shichijo_Miru

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