外に出ると、乗り物を用意しました、と言って現代で見たことの無い人なんていないだろうアレを手渡された。俺の知っているアレは空は飛ばないのだが。俺の知っているアレは道を走るためのものなのだが。あと、俺は免許なんて持っていないのだが。

――アレ、それは現代人の足、車である。

「で、こちらがこの魔道具を起動するためのアイテムです。」

 ああ、そうだな、そりゃあ、鍵だよな。だって、車だし。

 エンジンを掛けてみると、ブルブルブルブル、いつもの音が鳴り響く。モカも乗り込んで、出発の準備は整った。

 確かこんな感じで運転していたかなぁ、と適当にアクセルを踏み込むと、車は前に進まずに斜め上に進んでいく。なんだ、この車。

 なんだかわけのわからないまま車はどんどん空へ進んでいき、漸く球体の真横くらいに来たところでハンドルの存在を思い出した。

 ハンドルを切ってみるとそりゃもう当然のように空飛ぶ車は曲がる。いい感じに正面を球体に向けて、さあ球体に突っ込もうぞ。

 ただ少し怖いのでちょっと避けて出入りのできるところを探る。

 すると一箇所、なんだかよくわからないけれどパカッとあいているところがあって、そこから入ることができそうだった。

 さらに少し見回したあと、さきほど見たその穴に車を入れる。

 中はしーんと静まりかえっており、どうも敵の本丸という感じはしなかった。

 コツコツ、と俺とモカの足音が廊下に響く。壁には白い線のようなものが走っていて、よく見るとそれは発光している。全体的に真っ黒な廊下ではあるが、その照明のおかげでや人は簡単に認識できる。

 さらに進んでいくと、T字路に出た。壁には何故か硝子製の板のようなものがあって、ためしに触れてみると文字が、日本語が浮かびあがった。

『←魔王様の部屋  稽古場・生活区→』

 なんとまあご丁寧な。しかし日本語とはどういうことだろうか。別の世界からやってきたはずの魔王たちは日本語を使う。

 なんとなく、嫌な予感がする。なんか、案外知っている奴が出てきそうな、そんな雰囲気がある。

 そして俺たちは迷わず魔王様の部屋とやらのほうへ進む。階段を上ったり、ぐにゃぐにゃと曲がりくねったりしているが、一本道で、突き当たりには扉があった。

 壁と同じ色をした横開きの扉の横にはやはり硝子の板が取り付けられていて、タッチすると『魔王様の部屋』と浮かび上がった。

 しかし、この扉、ノブが付いていない。

 と、この硝子の板がもし電子機器のようなものであれば――

 俺は魔王様の部屋と表示された硝子板の上で指を横にスライドさせた。

『ドアを開けますか?』

 まあ見事にそんな文字が現れて、文字のしたにはYes,Noと書かれた四角いボタンが表示されている。

「さっきから弄っているそれは、何……?」

 そういえば空気同然だったモカがたずねてくる。

「これはたぶん何かのディスプレイだろうな。なかなか良くできたシステムだと思うよ」

 しかし、この魔王たちはかなり科学技術の発展した世界から来たということになる。まさか日本だなんてことはないだろうが、銃だとかそういった遠距離武器を使われると分が悪い。せめて近接の武器を使ってくれると助かるな、なんて。

「ディスプレイって……何?」

 あれ、黙っていたものだからてっきり納得したのかと思ったが、そうか、ディスプレイが何かについて考えていたから黙っていたのか。うーん、すごい困るな、この質問。

 そういえば、日本に居た頃も漠然と液晶だとかディスプレイだとか、そういった画面という実物を見て、「あー、ディスプレイだー」なんてやっていた気がする。うーん、何かを映し出すための機械みたいなものという説明であっているだろうか。

 もうわからん。改めて説明するというのも面倒くさいものだなぁ。

「いや、正直どう説明したらいいのかわからん。」


 さて、ひと段落ついたところで、そろそろ魔王の部屋に殴りこむとしますか。

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