第4話 僕の父と伝統

 8月中旬、あの災害からもうすぐ1か月がたとうとしていた日、やっと父の友人や仕事仲間の方々のおかげで洗浄が終わり彼らはそれぞれ帰って行った。父は”悪かった、ありがとう”とボソッと言い、頭を下げた。それに彼らは手を振って応えそれぞれ帰って行った。僕たちも残りの宿題を片付けていたが、昼僕は暑さで下に降り、今までは決して行かなかった工場に足を向けると父がどこかに電話で話をしていた。その会話から父が相手に納期の延長を願い出ているようで、実際は苦労していることが分かった。僕は父のことを何も知らないことにそこで初めて知った。父は電話の受話器を置くと息を吐きまた作業を開始していた。僕は何だか声をかけずらかったが、それでも僕のいる場所は日が当たり暑い為工場の中に入り父のいる作業場に入った。そこは風通りが悪いが日が当たらない分幾分ましであり、父も僕を一瞬目に捉えらがすぐに品物に目を向け作業を再開した。僕は何も言わずただじっと父の前に座り父のすることを母が僕を呼びに来るまで見ていた。そして、夜父が工場に行ったので、僕も母と父の邪魔はしない約束で父の所に行き作業を見ていた。僕は宿題をする時間を割と涼しい朝にして後は父の仕事を見ていた、父がなぜ自分の身体を犠牲にしてまで異常者のように品物に拘る理由をしたくて。しかし、見ていても父のことはわからなかった。寡黙、真面目、執着、それ以外に見えてくるものは何もなかった。しかし、それが夏休み最後の週で始業式2日前に、父は作業を止めて品物を棚に戻し僕に問うてきた、”どうしたんだ?”と。僕は父に戸惑いながらも思っていた疑問そのまままっすぐに伝えた。すると、父は初めて苦笑を浮かべて口を開き僕に答えをくれた。

 ”これしかできないからだ”

と。

 僕は災害に遭って一度品物なるはずだったものが壊れ再生した今までを振り返り、父は仲間や家族の僕たちの協力を受けてながら、以前から続けていた作業を繰り返していたことを理解した。僕は、初めて父が異常者ではなく、ただまっすぐで不器用なただの人なんだと気づき、そしてそんな父の災害による被害にもくじけずに作業を継続する父の強さを誇らしく思った。僕は父に、

 ”これが伝統(工芸品)を継ぐってことなんだね”

というと、父はただ頷き作業を再開し、僕はそんな父をもう一回見てから頭を下げ作業場を出て行った。


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伝統、それは人の意思の強さの形 ハル @bluebard0314

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