第9話 商人
花屋を出て、商人ラボナの店へ向かう。
「個々の店があるんだから、商人なんて要らないって思った?」
歩いていると、不意にドラールに話しかけられる。
「ああ、まぁ……ん、ちょっとは。」
「ふふ、正直。」
ドラールはくすくすと口元を手で覆う。
僕はなんだか照れくさくなり、目を逸らす。
ごめんって、と僕の左腕の裾を摘むドラール。
「私が薬屋でミアンとセリンが仕立て屋……服屋でしょ?リナが花屋。でも、みんな作ってるわけじゃないの。」
ドラールの素足が石畳の道路と触れ合い、ぺたぺたと音が鳴る。
「私やリナは元の植物を。ミアンとセリンは布や糸をって具合で、素材を買ってるの。」
さぁっ、と柔らかい風が吹く。
「わかった?」
うん、と頷いた時だった。
「それがこちら!」
右方から聞き覚えのない声がした。
「はじめまして!私は大商人のラボナ・バルビトール。以後お見知りおきを。」
金のポニーテールをサラリと揺らし、ぺこりと礼をするたくさんの道具の入った革でできたエプロンを着用する女性。
彼女がラボナらしい。
「君が入れ替わりの翔平君だね?よろしくね!」
にまっと笑って革のグローブをつけた右手を差し出してくる。
握手だろうか。
「よ、よろしくおねがいします…」
その手をぎゅっと握るとまた喋り出すラボナ。
「ん、よろしくよろしく!翔平君がこっち来ちゃったのは私のせいでもあるからね、買い物来てくれたらサービスするよ!」
「ちょっと、ラボナ!今回は私のとこ来たんだから私のせいだよ!」
ドラールがよくわからない反論をする。
「……聞いてないのかな、ドラール。」
ラボナが心做しか目を伏せる。
「今回は複合だったそうだ。私のせいでもあり、ドラールのせいでもあり、ミアンとセリンのせいでもある。1番使われたのがドラールってだけ。」
複合?ドラールが使われた?
意味がわからなくて割って入る。
「あの、何言って……」
「あ、ほら、翔平、私は今日仕入れに来たの!あっちだよ、行こっ!」
言いかけるとドラールが後ろから押して店の奥へ連れていこうとする。
「え、ああ、行こっか…」
変に詮索しない方がいいのだろうか。
僕の後ろでキャスケットを深くかぶりなおすラボナ。
「教えないことは……本当に得策なのか?」
ドラールは聞こえないふりをしている。
さよなら世界と独りぼっち の @kakumaro
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