第8話 花屋
翌日。
ドラールに起こされる。
花屋と商人のところへ行くという。商人は五月蝿いから先に花屋だと。
花屋は、何処か懐かしかった。
“Thyme”と掲げる店。
「リナ、おはよ〜」
きい、からんからん。
ドアの軋む音、ドアベルの音。
燻んだ窓から入る柔らかい朝の光と、それを白く反射しながら舞う埃。
ずらりと並んだ棚には、紅茶のようなものが入っていた。
ああ、そうだ。
故郷の商店街の古本屋。
彼処はこんなだった。
故郷。
久しく帰っていない。
優しい母、厳しい父、可愛い妹。
妹は確かもう17歳だ。
最後に会ったのは15歳の誕生日。
随分変わっているだろうと思う。
そこで思考を遮られる。
「お早う、ドラール。今日は……あら、そちらは?」
奥から出てきた女性。
恐らく彼女がタイム・リナロール。
白のブラウスに黒のロングスカート。
控えめなフリルのエプロンは生成り色。
「翔平、です。」
綺麗な人だ。
癖っ毛なのかくるくるとカールしたココア色の髪。
狸顔と言っただろうか、愛くるしい顔つき。
「ああ、入れ替わり……今回はドラールのところなのね」
そして可哀想に、と付け加えた。
「今日は何を?」
ドラールに向き直り、問う。
「うん、隣の街のサマンタさん、元気ないらしいから補中益気湯作ろっかなって。
そしたら白朮なくてさ。ある?」
にこにことドラールが答える。
僕にはさっぱりだったが通じたらしい。
「あるわよ。こっち。」
白く細い指を傾ける。
「いくら?」
「いいわよ、あげる。お得意様だもの。」
リナは瓶を一つ棚から下ろし、レジカウンターへ持っていく。
秤に重しを乗せ、白い紙の上にさらさらと出す。
「30gでよかったかしら?」
「そんなにいいの?ありがとう!」
ドラールは包みを受け取る。
「翔平、これ家置いてくるからここでお話して待ってて!」
それだけ告げると、ドラールは外へ飛び出していった。
「嵐のような子よね」
リナは頬杖をつきながら言う。
「そう思わない?周りを無邪気に振り回して。誰よりも弱いくせに。」
はたきで棚をぱたぱたと掃除し始めた。
「あの子のこと、お願いね。あなたに頼むのも酷かもしれないけれど。」
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